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今年も宜しくお願いします。 [総合]

明けましておめでとうございます。
コロナ禍で仕事が落ち着かず、なかなか更新できない状態です。ドイツを再訪するのはまだ難しい状況ですが、実車も模型も時間を見つけて楽しんでいきたいと思います。
今年も宜しくお願いします。
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DB Baureihe 01.10 (Märklin 37105) [鉄道模型 Maerklin]

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 私は元々蒸気機関車にはそれほど興味がなく、ナローゲージで乗車したことがあった程度であったが、Düsseldorfに住んだ直後にイベントで50形の姿を目にして以来、本線蒸機にも魅力を感じ、滞在中に何度か蒸気機関車牽引の特別列車に乗車した。その中でも、最も印象に残っている機関車が01.10形である。2016年9月3日、愛好者団体Ulmer Eisenbahnfreunden (UEF)によって動態保存されていた01 1066が牽引する列車でMannheimからTrierまで乗車したが、120km/h以上で疾走する姿に圧倒され、この大型急行用機関車に魅了されたのであった。

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 2016年12月には01 1066のさよなら運転にも駆け付けた。

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 その後、EK-Verlagから発売されている„Eisenbahnknoten Düsseldorf“という書籍を眺めていた際に、Düsseldorf Hbfに停車中の01 1066の写真を目にして、益々01.10形に親しみが湧いた。2017年ゲッピンゲンで開催されたIMAを訪れた際に、メルクリン博物館の売店で01.10形のモデル37105がバーゲン価格で販売されており、早速購入したのであった。いつもお世話になっているmasato-marklinさんが01.10形のモデルを紹介されているので、私も便乗して、この37105を実車の詳細と共に紹介したい。

【01.10形について】
 Deutsche Reichsbahn ドイツ国有鉄道は1920年代から急行旅客用蒸気機関車として01形や03形を開発・量産していたが、1930年代になると蒸気機関車の一層の高速化が図られるようになり、最高速度150km/h、さらに500tの列車を120km/hで牽引可能な機関車として開発されたのが01.10形である。最大の特徴は、01形が2シリンダーであったのに対し、3シリンダーとなった点である。外観も空気抵抗を軽減するため、流線型カバーに覆われたものとなった。
 01.10形は400両の導入が計画され、まず1939年から43年にかけてSchwartzkopf・Krupp・Borsig・Henschel・Krauss-Maffeiの各メーカーによって205両が製作される予定であったが、第二次世界大戦の影響で、実際に製作されたのはSchwarzkopfによる55両 (01 1001 / 1052-1105)のみであった。01 1001は1939年8月29日にWildauでドイツ国有鉄道に納入され、1940年9月までに55両が完成した。これらの機関車はドイツ各地、さらに現在はポーランドに属するKattowitzやBreslauにも配属された。しかし、戦況の悪化で物資輸送が優先され、01.10形は活躍の場を奪われていく。1941年には最高速度が150km/hから140km/hに落とされたが、既にこの頃には大半の路線で100km/h程度しか出せない状態となっていた。01.10形は西側に集約され、1945年のドイツ敗戦時にはBranuschweig・Hannover・Göttingen・Kasselに集約されていた。しかし、大半の機関車は運用から外され留置されていた状態であった。結果的に01.10形はドイツ分断時には全車が西ドイツに残り、1949年のドイツ連邦鉄道 Deutsche Bundesbahnに引き継がれることとなった。
 1945年から1947年にかけては10両に満たないKasselおよびGöttingen所属の01.10形が運用されるのみであったが、車両不足のため、その他の蒸気機関車も順次再整備を受け運用に復帰した。さらに、1948年から1951年にかけて車体を覆う流線型カバーが順次外された。これにより、01.10形は正面に給水加熱装置が張り出し、煙室扉の上部が欠き取られた独特なスタイルとなったなり、Witte式除煙板も設けられた。1949年7月の段階ではPaderborn・Bebra・Kassel・Hagen-Eckeseyに45両の01.10形が所属しており、1951年夏までには既に廃車となった01 1067を除く54両がOffenburg・Bebra・Kassel・Hagen-Eckeseyに出揃った。
 しかし、St 47 K鉄鋼で製作された罐の老朽化が想定よりも早く進行し、車齢がまだ若かった01.10形全車について罐の交換が行われることになった。新しい罐はHenschelによって製作され、1953年12月に01 1060の初めて装備され、1956年11月までに全車の交換が終了した。

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 さらに1956年には01 1100が石炭燃焼式から重油燃焼式に改造された。重油燃焼式は経済的で操縦性も良く、機関士の作業軽減にもつながったため、01 1110に加えて、1958年までに01 1001 / 1052 / 1054-1055 / 1057-1061 / 1063-1064 / 1066 / 1068 / 1071 / 1073-1077 / 1079-1082 / 1084-1085 / 1088-1089 / 1092 / 1101-1105の33両が重油燃焼式に改造された。

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 1957年時点では01.10形はOffenburg・Bebra・Kassel・Osnabrück・Hagen-Eckeseyに配属され、重油燃焼式となった機関車の運用も開始され、主要幹線で華々しい活躍をみせた。が、1950年後半から幹線の電化が進行し、さらにE10形電機やV200.1形ディーゼル機関車の増備で、01.10形の運用範囲は徐々に縮小していく。1961年には01.10形の配属はBebra・Kassel・Osnabrückに集約されたが、1963年にはBebraの運用も消失し、Bebra所属機はKassel・Osnabrückに転属した。
 1968年にはナンバリングシステムの改訂で、石炭燃焼式は011形、重油燃焼式は012形となった。1968年3月12日付で012 079が廃車になり、以後01.10形の廃車が本格化する。1970年には01.10形はHamburg-AltonaとRheineの2つの機関区に配属され、Hamburg-Westerland、Rheine-Emden-Norddeichが残された活躍の場となった。1972年夏にはHamburg-Altonaの運用が終了し、Rheineの運用も徐々に縮小した。1975年5月31日01 1100が牽引したNorddeich Mole-Rheine間のEilzug 3260を最後に01.10形は引退し、最後まで残った012 055/061/063/066/075/081/100は6月26日に廃車となった。
 01.10形は55両と生産数が少ない割には引退が遅かったこともあって保存機は比較的多い。しかし、稼働状態にあるのはオランダの団体Stoom Stichting Nederlandによって保存されている01 1075 (重油燃焼式であったが、保存にあたって石炭燃焼式に改造された)のみである。前述した01 1066は2016年12月に検査期限切れで運転を終了し再整備を待つ状態である。01 1104も復活に向けて整備されており、当初は2018年から特別列車を牽引する予定であったが、その後延期され、具体的な復活運転の計画は明らかとなっていない。01 1100も再整備が行われれば、復活する可能性があるが、現在はDB Museum Koblenzで留置されている。01 1102は1996年にオリジナルの流線型スタイルに復元されたが、2004年に重大な損傷を負い、現在はチェコで留置されている。この他、01 1056/1061/1063/1081/1082が博物館などで静態保存されている。
 なお、所属機関区毎の01.10形の主な運用区間は以下の通りである。

BW Paderborn:
Hagen/Hamm/Köln - Kassel/Hannover/Braunschweig/Northeim

BW Hagen-Eckesey
Hagen - Kassel/Köln, Hannover - Braunschweig/Möchengladbach

BW Offenburg
Basel Bad Bf. - Frankfurt(M)/Ludwigshafen/Mannheim/Heidelberg

BW Bebra
Hannover - Frankfurt(M)/Würzburg
Treuchtlingen - Hamburg-Altona
Hannover - Ingolstadt

BW Kassel
Kassel - Hamm/Frankfurt(M)/Bebra

BW Osnabrück
Rollbahn Köln - Münster - Osnabrück - Bremen - Hamburg

BW Hamburg-Altona
Hamburg-Altona - Westerland

BW Rheine
Münster - Emden

諸元: 軸配置 2'C1' h3, バッファー間長 24.130 mm, 全高 4.550 mm, 先輪径 1.000mm, 動輪径 2.000 mm, ボイラー圧力 16 bar, 出力 2350 PS (石炭燃焼式) / 2.470 PS (重油燃焼式), 最高速度 140km/h (後進時 50 km/h), テンダー 2'3 T38

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【模型】

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 メルクリンの37105は1966/67年の01 1054 (新しい罐を装備し、重油燃焼式となった姿)をプロトタイプとしている。メルクリンは1984年に初めて01.10形を発売し、バージョンを変えつつ、これまで何度か製品化されており、この製品は2014年の新製品として発売された。最新の製品ではあるが、基本的な設計はこれまでの製品と変わっておらず、ハイピングなどディテールでは最近の製品に比べて劣ることは否めないが、全体の印象把握は非常に良い。別パーツは殆どないので、私のようなずぼらな人間には扱いやすい。

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 mfxデコーダーを装備し、フルサウンド仕様となっているが、サウンドの種類は長短の汽笛、ブレーキ音、エアポンプ音など現在の水準に比べると物足りなく感じるかもしれない。DCMモーターを使用しているため、牽引力は十分で走行性能も安定しているが、モーター音はやや大きい。ただ、スピーカーが大きいため走行音がモーター音にかき消されることはない。



 ファンクションで特徴的なのは動輪付近の作業灯で、特に機関区を再現したレイアウトでは印象的な光景となるであろう。

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 なお、メルクリンの01.10形についてはmasato-marklinさんが29740を、Akiraさんが3つのバージョン (3310, 3790, 29010)を紹介されている。
 スタイルが良く、頑丈でよく走るということで、私にとって最もお気に入りのモデルの一つである。

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【01 1054について】
 01 1054は1940年2月27日に登場し、Bw Leipzig Hbf Westに配属された。1943年にはBw Breslauに移されたが、1945年5月第二次大戦時には運用から外れ、Bw Hannoverに留置されていた。1949年に流線型カバーを外され再整備を受け、Bw Paderbornに配属された。1952年4月には03.10形と交換する形でBw Offenburgに移った。1954年4月に罐の交換が行われ、さらに1957年11月には重油燃焼式に改造されると共にBw Osnabrückに移籍した。
 Bw Osnabrückでは重油燃焼式の01.10形の運用が1957年秋より開始されており、HamburgやKöln・Würzburgには重油補給設備も設けられた。この頃のBw Osnabrück所属の01.10形はBonn・Bremen・Dortmund・Düsseldorf・Essen・Hamburg-Altona・Hamm・Hannover・ Köln・Münster・Hengrlo (オランダ)への列車に運用されていた。1961年時点ではBw Osnabrückには重油燃焼式20両、石炭燃焼式5両の01.10形が所属し、01.10形の配属が最も多い機関区であった。しかし、1962年以降は電化の進展で運用範囲は縮小していく。1964年にはKölnへの乗り入れが終了した一方で、Rollbahnの旅客列車の運用が増加した。
 1965年時点ではBw Osnabrückには重油燃焼式24両、石炭燃焼式13両の01.10形が所属していた。1966年9月にはOsnabrückより南の区間の電化が完成したが、1968年5月まではDortmundまで乗り入れていた。

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 1968年1月1日、01 1054は012 054に改番された。電化の進展で、1968年にはBw Osnabrückは21両の012形のみが所属していたが、1968年夏を以て全ての運用が終了し、1968年9月012 054を含む11両の012形はBw Rheineに移籍した。1972年3月15日012 054は運用から外れ、1972年7月20日付けで廃車となり、解体された。

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[参考文献]
- Eisenbahn Journal "Baureihe 01.10" 2008年
- Eisenbahn Journal "Die Baureihe 01.10" 1992年
- Jürgen-Ulrich Ebel. "Die Baureihe 01.10. Band 1: Lokomotivlegende zwischen Stromlinieära und Computerzeitalter" EK-Verlag 2010年
- BahnExtra "Von der 01 bis zur 61 Schnellzug-Dampfloks bei Bundesbahn und Reichsbahn" 2018年
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Rhein-Ruhr-Express (RRX) [ドイツ鉄道 列車]

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 ドイツ北西部、Nordrhein-Westfalen (NRW)州はヨーロッパでも最も人口の集中している地域である。特にラインラント地方とルール地方の主要都市を結ぶKöln – Düsseldorf – Duisburg – Essen – Bochum – Dortmund間はドイツでも利用客数が多い路線の一つであり現状でも列車密度も高いが、慢性的な混雑と遅延が課題になっている。そこで、この路線をコアに周辺都市をカバーする地域輸送ネットワークを改良・整備し利便性を向上させるプロジェクトが開始され、Rhein-Ruhr-Express (RRX)と命名された。RRXプロジェクトは単なる新しい列車の導入計画ではなく、大規模なインフラ整備も含まれており、連邦政府からも優先度の高いプロジェクトと位置付けられ、ドイツでも最大級の鉄道プロジェクトである。NRW州の地域公共交通の輸送量は年々増加しているが、このプロジェクトが完成すれば自家用車から公共交通へのシフトが更に進むと予想されている。
 2000年代半ばに連邦政府・NRW州政府・DBの間でRRXプロジェクトに関する枠組み合意が締結された。インフラ整備の計画と実行はDBのインフラ部門であるDB Netzが中心となり、DB Station & Service・ DB Energieも参加して行われる。Köln – Dortmund間は(1) Köln – Leverkusen – Langenfeld、(2) Düsseldorf、(3) Düsseldorf - Duisburg、(4) Mülheim、(5) Essen – Bochum、(6) Dortmundの6つの区画に分けられ、連邦政府の出資で、DB Netzによって順次線増工事などが行われる予定である。また、Köln – Dortmund間以外の駅についても、NRW州政府の出資でDB Station & Serviceによって改良工事が実施されることとなっている。
 インフラ整備の完成は2030年~2035年になると見込まれており、その際には現在のREネットワークに代わり、以下のRRXネットワークが整備され、コアとなるKöln – Dortmund間では15分間隔でRRXが運行することが計画されている。

RRX 1
Aachen – Köln – Düsseldorf – Essen – Dortmund

RRX 2
Aachen – Köln – Düsseldorf – Essen – Dortmund – Hamm – Paderborn – Kassel

RRX 3
Köln/Bonn Flughafen – Neuss - Düsseldorf – Gelsenkirchen – Dortmund – Münster

RRX 4
Koblenz – Köln – Düsseldorf – Essen – Dortmund – Hamm – Bielefeld

RRX 5
Düsseldorf – Duisburg – Oberhausen – Wesel

RRX 6
Koblenz – Köln – Düsseldorf - Essen – Dortmund – Hamm – Bielefeld – Minden

RRX 7
Düsseldorf – Duisburg – Essen – Gelsenkirchen – Münster - Osnabrück

 このRRXネットワークの実現はインフラ整備の完了を待つ必要があるが、それに先立って2016年12月のダイヤ改正でNRW州をカバーするRegionalExpress (RE)のネットワークに修正が加えられ、2018年12月以降、段階的に以下のRE路線を順次RRXによる運行へ変更することとなった。

RE 1
Aachen – Köln – Düsseldorf – Essen – Dortmund – Hamm

RE 4
Aachen – Mönchengladbach – Düsseldorf – Wuppertal – Hagen – Dortmund

RE 5
Koblenz – Köln – Düsseldorf – Duiseburg – Wesel

RE 6
Köln/Bonn Flughafen – Neuss - Düsseldorf – Gelsenkirchen – Dortmund – Hamm – Minden

RE 11
Düsseldorf – Essen – Dortmund – Hamm – Paderborn – Kassel-Wilhelmshöhe

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DB RegioのRE

 RRXの運行は、Verkehrsverbund Rhein-Ruhr (VRR)、Nahverkehr Rheinland (NVR)、Nahverkehr Westfalen-Lippe (NWL)の3つの運輸連合が、Nordhessischen VerkehrsverbundおよびSPNV-Nordと協力して管轄する。RRXには専用の新型車両が用意され、運輸連合VRRが保有して運行会社にリースすることとなった。
 RRXの運行権は入札で決定され、2015年6月16日RE 1・RE 11の運行権をオランダ鉄道NS傘下のAbellio NRW、RE 4・RE 5・RE 6の運行権をイギリス資本のNational Expressが獲得したことが発表された。なお、運行権の期限は2033年12月である。DB Regioが落札に失敗した背景として人件費が高い点が挙げられている。NRW州においては、DB RegioはS-Bahnの運行権の落札にも失敗しており、将来的にはNRW州におけるDB Regioのシェアは50%未満に低下する見込みである。

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 2015年3月16日、RRXに運用される車両の調達先としてSiemensが選ばれ、新型電車Desiro HC 82編成が発注された。車両調達に加え、32年間のメンテナス契約を結ばれ、17億ユーロに及ぶ大型契約となった。後に納入遅れに対する補償として無償で2編成が追加され、最終的に84編成が製作される予定である。
 Siemensは地域輸送用車両の電車または気動車を“Desiro“ブランドで展開しており、ドイツのtrans regioやオーストリアのÖBB向けに製造されたDesiro ML、スイスSBB向けの総2階建て電車Desiro DDなど様々なバージョンの車両を製造してきた。Desiro HCはDesiroファミリーの最新バージョンの電車で、形式は462形である。
 Desiro HCは乗客の快適性を高めつつ、高い収容力を確保することが重視され、先頭車が1階建て動力車、中間車が2階建て付随車となった点が最大の特徴である。Siemensは既に総2階建て電車を製造した経験があるが、先頭車を動力車とした場合、技術的な制約が多い割に収容力の点でのメリットが小さいと考えられたことから、このような車両構成が選択された。RRX向けのDesiro HCは2階建て中間客車2両を挟んだ4両編成となっているが、中間車を増やすことで5両編成または6両編成とすることも可能である。RRXでは通常2編成併結で運用されるが、最大3編成の併結運転も可能な設計となっている。

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 Desiro HCの車体はアルミニウム製で軽量化が図られている。車体幅2,820mm、車体長は先頭車26,226mm、中間車25,200mmで、RRX用の4両編成では編成長は105,252mmとなる。軸配置はBo‘Bo‘+2‘2‘+2‘2‘+Bo‘Bo‘で、主要機器は先頭車の屋根に搭載されており、車内スペースを確保するとともに、メンテナンス性向上も図られている。編成重量は200tである。正面デザインはまず空気力学的に望ましい形状を決められ、その上でライト類など各パーツの配置が決定された。Desiro HCの正面デザインは全く新しいものであるが、従来のDesiro MLのイメージを踏襲している。側面については、編成としての統一感が損なわれないよう配慮され、1階建て先頭車と2階建て中間車の高さが目立たないよう先頭車はパネルで嵩上げされている。なお、車体はTSIおよびEN15227に準拠した衝撃吸収構造を有している。
 編成での出力は4,000kWで、最高速度160km/h、加速度は最大1.1 m/s2の性能を有する。台車は、動力車ではSF 100形、付随車ではSF 500形空気ばね台車が採用されている。Train Control Network 車内情報制御伝送系はイーサネットをベースとしている。
 車内もモジュール構造となっており、1等席・2等星・自転車用スペースなどを路線事情に合わせて設定できる。RRX用編成では片側の先頭車の2/3のスペースに2+2列で36席の1等席が設定された。2等席は364席で、座席定員は400名である。座席は1等・2等とも2+2列配列のクロスシートが基本であるが、2等2階席の階段付近に通路を挟んで座席を向かい合わせに配置された一画があり、また先頭車の一部は自転車などの搭載を考えて折り畳み椅子となっている。1等車では全席、2等車では2席に1席の割合で電源ソケットが用意されている。さらに1等席には読書灯・折り畳みテーブルも付属しており、2等席も一部では折り畳みテーブルが設けられている。インテリアは1階建て車両・2階建て車両に関わらず、極力統一感があるよう配慮されたが、特に2階部分は側窓がカーブしていることもあり圧迫感が大きく、またスペースの制約から荷物棚も小さいという欠点がある。

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 折り畳み椅子が設けられたスペースには最大18台の自転車搭載が可能である。Desiro HCは、移動困難者でも快適に利用できるようEUが定めた規制であるTSI PRMに準拠している。乗客の移動や乗降をスムーズにするため、乗降扉は幅の広いものとなり、デッキや通路は極力広く取られている。乗降口の高さは先頭車800mm、中間車730mmで、ヨーロッパの標準である高さ760mmおよび550mmのプラットフォームに対応している。特に先頭車は760mmプラットフォームからフラットな乗降が可能で、車椅子や乳母車などを用いる乗客に対応している。トイレは中間車に1か所ずつ設けられた他に、2等車側先頭車には身障者対応のユニバーサルトイレが設置されている。

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 車内照明はLEDである。空調装置は三菱電機が受注し、乗車人数に合わせてエネルギー消費を最適化する機能を有していることが特徴がある。。車内各所には情報案内用の液晶モニターが設置されている。また、セキュリティ向上のため、高解像度のCCTV監視カメラが設けられている。RRXではWLAN設備が設けられ、無料WiFiサービスが提供される。

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 RRXのカラー・コンセプトはグレーを基調にオレンジ色をアクセントとしており、ドットマトリックスを用いているのが特徴である。外観では、1等車側の先頭車正面がオレンジに、2等車側が黒色となっているのが目立つ。RRX用の外観デザインは2009年にはRE 3に運用されていたEurobahnのStadler製Flirtの外観に試験的に施されていたが、このデザインは実車の開発の過程で少しずつ変更が加えられている。インテリアデザインにおいては、当初案に比べオレンジ色の使用は抑えられてグレーを基調とすることで、高級感のある内装となっている。

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 RRXのデザインを担当したのはTRICON DESIGN AGである。同社のRoland Dressel氏が記した専門誌の記事によると、RRX向けのDesrio HCのデザイン・プロジェクトは、「Siemensの新車両Desiro HCのデザインすること」・「Desiro HCのデザインをRRXの要件に合わせて調整すること」・「RRXのデザインコンセプトの実行すること」の3つの要素からなっており、全く新しいコンセプトの列車をデザインしつつ、RRXという新しいブランドの作り上げたこのプロジェクトは、デザイナーにとっても非常に魅力的であった、としている。その高品質なデザインは高く評価され、2016年iF Design Award、2017年German Design Awardを受賞している。
 Desiro HCの製造はKrefeld・Wien Simmering・Graz・Wegberg-Wildenrathの各工場で行われる。なお、Desiro HCはRRX以外からも発注されており、2019年7月現在、DB RegioがNetz Rheintal (Freiburg・Basel方面)用に4両編成15本、Go Ahead GermanyがAugsburg向けに5両編成12本、Ostdeutsche Eisenbahn GmbH (ODEG)がNetz Elbe-Spree 向けに6両編成21本・4両編成2本をそれぞれ発注している。さらにイスラエルからも24編成が発注されている。

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 2017年3月31日Krefeld工場でRRX向けDesiro HCの先頭車が姿を現した。5月にはWienで製造された2両の中間車がSiemensのテストセンターがあるWegberg-Wildenrathに到着し、ここで先頭車と連結されて4両編成となり、試運転が開始された。7月12日にはメディア向けに内装・外観が公開され、11月20日には本線での試運転が開始された。さらに2018年9月にはBerlinで開催されたInnoTransでRRX用のDesiro HCが公開された。
 2018年6月、Dortmund-Evingに操車場の跡地を利用して、RRX用の保守基地が完成した。保守基地の面積は70,000m2で、基地内の線路長は5.5kmに達する。保守基地は、6線の整備庫、3階建ての倉庫、清掃設備などから構成される。高性能3Dプリンターも備えられ、スペアパーツの迅速な補充を可能としている。この基地は徹底したデジタル化が推進されている点も特徴である。この保守基地は今後32年間、RRXの保守整備を担当することになる。
 2018年12月、連邦鉄道庁EBAよりRRX用のDesiro HCの営業運転に対する認可が下り、予定通り2018年12月9日ダイヤ改正でRE 11系統でRRXの営業運転が開始された。運行を担当するのはAbellio NRWで、まずは15編成のDesiro HCがこの運用に就いた。2019年6月9日よりRE 5系統もRRXによる運行となった。運行を担当するのはNationalExpressである。なお、これに先立つ5月9日よりDB Regioが運行していたRE 5系統の1運用が乗務員の習熟のため、RRXによる運行となっていた。RRXはこれまでおおむね順調に営業運転を行っている。定評のあったDB Regioの2階建て客車に比べて快適性で劣るのではないか、という批判もあるが、乗客には概ね好評をもって迎えられている。

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 2019年12月からはRE 6系統 (NationalExpress)、2020年6月からはRE 1系統 (Abellio)、2020年12月からはRE 4系統 (NationalExpress)がRRXによる運行となる予定で、RRXがNRW州の地域輸送で中心的な役割を担うことになる。

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 RRXはヨーロッパでも最大級の都市圏の地域輸送を、運輸連合が主体となって整備する壮大な鉄道プロジェクトであり、今後の動向も注目される。

<参考>
Roland Dressel. ”High Capacity Design – Die Gestaltung des Triebzuges Desiro HC für Siemens und den Rhein-Ruhr-Express (RRX)”. EI-SPEZIAL, Sep. 2017.
Eisenbahn Kurier 各号
Eisenbahn Modellbahn 各号
RRX ホームページ (www.rrx.de)
Siemens Mobility ホームページ (www.siemens.com)
Deutsche Bahnホームページ (www.deutschebahn.com)
TRICON ホームページ (www.tricon-design.de)
RP ONLINE (rp-online.de)
Der Western (www.derwesten.de)
Railcolor News (railcolornews.com)
Railway Gazette (www.railwaygazette.com)
Railway Technology (www.railway-technology.com)
Drescheibe-Online (www.drehscheibe-online.de)
Lok Report (www.lok-report.de)
www.elektrolok.de
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Die Bombardier-TRAXX der Baureihe 146 für DB Regio in Nordrhein-Westfalen [ドイツ鉄道 電気機関車]

 日常的に走っている列車に比べ、蒸気機関車をはじめ様々な臨時列車が鉄道ファンの人気を集めるのはドイツも日本も変わらない。一方で鉄道車両が当たり前に走っている姿こそ最も格好良いと思うのは私だけでもないようである。保存車を見ては、この列車の全盛期にその姿を見たかった、なんて会話が交わされるのはその証左であろう。
 Düsseldorfに住んでいた頃、「当たり前に走っている」列車は幾つもあったが、地域輸送の中でその代表格を挙げるなら、RegionalExpress REの牽引に用いられたBombardier製TRAXXシリーズの146形である。

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146 275 in Angermund am 03.10.2017

 NRW州のREネットワークの根幹をなすのは、大幹線であるKöln – Düsseldorf – Düsseldorf Flughafen -Duisburg – Essen – Bochum – Dortmundを経由する路線で、これらは主に146形と2階建て客車5~6両で運行されている。現在、146形が運行されているのは、以下の路線である。

RE 1 (NRW-Express)
Aachen – Köln – Düsseldorf – Duisburg – Essen – Dortmund – Hamm

RE 2 (Rhein-Haard-Express)
Düsseldorf – Duisburg – Essen - Gelsenkirchen – Münster

RE 5 (Rhein-Express)
Koblenz – Bonn – Köln – Düsseldorf – Duisburg – Oberhausen – Wesel

RE 6 (Rhein-Weser-Express)
Köln/Bonn Flughafen – Köln – Dormagen – Neuss – Düsseldorf – Duisburg – Essen – Dortmund – Bielefeld – Minden

 Köln – Düsseldorf – Düsseldorf Flughafen -Duisburg – Essen – Bochum – Dortmundは大半が複々線または3複線で、Köln – Duisburgは最高200km/h、他も最高160km/hと高規格の路線となっている。REは最高160km/hで走行し、ICEやICと遜色のない所要時間で各都市を結んでおり、まさにNRW州の地域輸送の中心的な存在と言える。実際、これらのREはラッシュ時はもちろん、日中も常に混雑している。

 NRW州でのRE牽引用に最初に導入された146形は初期型の146 008-031の24両で、2001年から2002年にかけてDortmundに新製配置された。Ludwigshafenに配置されていた146 001-007も7両も後にDortmundに移り、31両が活躍した。

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146 017 in Köln Messe/Deutz on 02.08.2013.

 この状況に変化が生じたのは2014年のことである。Dortmundに当時最新鋭のTRAXX 2シリーズのP160 ACである146.2形26両 (146 257-282)が新製配置されたのである。さらにFrankfurt (M)所属のTRAXXシリーズの P160 AC1である146.1形6両 (146 177-122)が転入した。一方、146 001-031はDresden・Magdeburg・Frankfurt (M)に転出した。
 ところで、熱心な鉄道ファンの皆さんが披露しているような美しい写真を撮る技術はないが、ドイツに滞在していた2016年7月から2018年2月までの間、日常的に撮影に赴いたこともあり、「質より量」、Dortmund所属の146形は全て撮影したのではないか、と思い付いた。写真フォルダーを見返したところ予想通り全機の写真が見つかった。ということで、Dortmund所属の146形を一気に紹介したい.。ドイツの四季も少しは感じていただけるであろう。

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146 117 in Essen-Frohnhausen am 20.05.2017.

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146 118 in Duisburg-Schlenk am 03.06.2017.

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146 119 in Angermund am 01.08.2017.

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146 120 in Düsseldorf-Unterrath am 19.04.2017.

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146 121 in Düsseldorf Zoo am 20.07.2017.

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146 122 in Essen-Frohnhausen am 14.10.17.

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146 257 in Düsseldorf-Eller Süd am 18.04.2017.

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146 258 in Düsseldorf-Garath am 18.11.2017.

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146 259 in Düsseldorf-Garath am 24.04.2017.

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146 260 in Angermund am 19.11.2017.

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146 261 in Angermund am 02.12.2017.

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146 262 in Düsseldorf-Eller Süd am 08.12.2017.

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146 263 in Angermund am 07.07.2017.

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146 264 in Langenfeld-Berghausen am 08.07.2017.

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146 265 in Düsseldorf-Derendorf am 29.10.17.

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146 266 in Düsseldorf-Garath am 07.08.2017.

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146 267 in Düsseldorf-Eller Süd am 16.08.2017.

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146 268 in Düsseldorf Zoo am 07.07.2017.

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146 269 in Düsseldorf-Eller Süd am 16.08.2017.

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146 270 in Düsseldorf-Eller Süd am 09.12.2017.

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146 271 in Düsseldorf-Garath am 25.07.2017.

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146 272 in Düsseldorf-Garath am 16.08.2017.

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146 273 in Düsseldorf-Unterrath am 19.04.2017.

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146 274 in Düsseldorf-Unterrath am 19.04.2017.

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146 275 in Langenfeld am 29.09.2017.

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146 276 in Angermund am 31.12.2017.

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146 277 in Düsseldorf-Derendorf am 02.11.17.

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146 278 in Düsseldorf-Garath am 31.03.2017.

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146 279 in Langenfeld am 08.07.2017.

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146 280 in Duisburg-Rahm am 31.12.17.

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146 281 in Angermund am 26.11.2017.

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146 282 in Düsseldorf-Derendorf am 28.10.17.
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ICE 4 [ドイツ鉄道 電車]

 毎年この時期になると鉄道模型メーカー各社から新製品が発表されるが、その中でも話題になっているのはドイツ鉄道 DBの新しいフラッグシップ、ICE 4であろう。HOではPikoとMärklin、NゲージではKATOから製品が発売される予定である。実車も順調に増備が進み、活躍の範囲を広げている。本ブログでもICE 4は一度紹介したが、ICE 4の特徴と現状について、改めてまとめておきたい。なお、写真などは一部重複している。

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<概要>
 ICE 4は2017年12月に本格的にデビューしたドイツの最新の高速列車である。ICE 3に続いて動力分散式が採用されたが、最新の技術が盛り込まれると共に、サービス面での充実も図られている。一方で、環境への配慮、コストといった点も重視され、最高速度も250km/hに抑えられているのが特徴である。今後DBの標準車両として100編成以上が製作され、DBの長距離輸送ネットワークにおいて中心的な役割を担う車両である。

<登場の背景>
 DBの長距離ネットワークは主にICEとICによって構成されているが、ICの多くには1971年から1991年にかけて導入された客車列車が未だに使用され、老朽化が進行している。さらに1991年のICE開業から25年以上が経過し、ICE 1やICE 2といった早期から活躍してきた車両も更新工事から約15年が経過し、将来的に置き換えが必要となる。DBは完全民営化に向けて政府から財務健全化が求められていることもあり、大規模な高速列車の調達はICE 3以後はしばらく途絶えていたが、旧世代の車両を置き換えると共に、新時代の長距離鉄道ネットワークを支える車両として新たに開発された車両がICE 4である。

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ICE 3 (左)と並ぶICE 4

<発注と製造>
 ドイツの新型高速列車の製造にはSiemens Mobility・Alstom・Bombardierなど6つのメーカーが名乗りを上げたが、2010年初めにSiemensが受注し、Bombardierもサプライヤーとして加わることとなった。2011年5月、DBはSiemens Mobilityと最大300編成、60億ユーロに及ぶ新たな高速列車の導入に関する包括協定を結んだ。この新型車両は“ICx“と呼称され、最初に130編成 (7両編成45本・10両編成85本)が発注された。その後乗客数の増加が見込まれたことから計画が一部見直され、2014年に10両編成バージョンは12両編成に延長されることになった。さらに2017年には発注数は12両編成100本、7両編成19編成に修正され、2021年までに製造することになった。
 ICxの製造はSiemensおよびBombardierの各工場で行われこととなった。具体的には、鋼製車体の材料はBombardierのGörlitz工場、動力台車はSiemensのGraz工場、付随車の台車はBombardierのSiegen工場、中間車の最終組み立てはSiemensのKreferd-Uerdingen工場、先頭車の組み立てはBombardierのHennigsdorfが担当した。なお、実車の製造に先駆けて、車内デザインなどの検討のため、木製モックアップが製作され、2012年にBerlinで開催されたInnoTransでも公開された。このモックアップは現在DB Museum Nürnbergに展示されている。

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 ICxの製造は2012年4月より開始された。2014年3月6日に塗装済みの最初の車体がGörlitzからKrefeldに輸送され、4月より先行試作車の組み立てが開始された。2014年12月22日5両からなる最初の編成がHennigsdorf工場からSiemensの実験線があるWegberg-Wildenrathへ輸送された。
 2015年5月チェコのVelimで最初の試運転が開始され、2015年8月からは本線上での試運転も始まった。ICxは2015年9月以降、ICEの新世代との位置付けから“ICE 4“と呼ばれるようになった。12月4日にはBerlinで交通大臣Alexander DobrindtとDB社長Rüdiger Grubeにより、はじめてICE 4が公開され、2017年12月10日のダイヤ改正で営業運転に就くことが発表された。
 先行試作車として製造された12両編成の9001-9007編成に続き、2017年6月からは9008編成以降の量産車の製造も開始された。2019年1月現在9026編成までが落成している。なお、7両編成バージョンは2020年12月から営業運転を開始する予定である。
 2018年10月にはさらに追加発注が行われ、12両編成50本については動力車1両を追加して13両編成とし、また7両編成18本が新たに導入されることとなった。したがって、2019年1月現在、ICE 4は13両編成50本、12両編成50本、7両編成37本の導入が予定されている。13両編成は2021年以降に登場する予定であり、また追加分の7両編成については2023年からの製造が予定されている。

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<編成>
 ICE 4の最大の特徴の一つとして、Powecarコンセプトが採用された点があげられる。これは1両の“Powercar“に変圧器・変換器・主電動機などの主要機器を集中して配置するもので、機器の小型化・軽量化が進んだことことで実現した。これにより、基本的な車種をPowercar・付随中間車・先頭制御車・食堂車とサービスカーに絞りこむことができ、これらを需要に合わせて組み合わせることで、加減速度・最高速度などの車両性能や定員などを柔軟に設定できるようになった。ICE 4の場合は5両編成から14両編成までのバリエーションに対応しているが、現在のところ導入が予定されているのは7両編成・12両編成・13両編成の3つのバージョンである。12両編成と7両編成の車種は以下の通りである。

12両編成
0812.0 - 1812.0 - 1412.0 - 8812.0 - 6412.0 - 9812.0 - 2412.0 - 2412.3 - 4812.0 - 2412.5 -2412.8 - 5812.0

7両編成
6812.2 - 1812.2 - 9412.0 - 7412.0 - 3812.2 - 3412.0 - 7812.2

 上記のうち、x412形は動力車、x812形は付随車または制御車である。13両編成は12両編成の6412.0形と9812.0形の間に2412形が1両追加される予定である。7両編成はMT比3:4、12両編成はMT比6:6、13両編成はMT比7:6である。
 現在営業運転を行っている12両編成は1等車3両、1等+食堂車BordRestaurant 1両、2等サービス車1両、2等車7両で構成され、全長346mで、定員は830人 (内1等205人、BordRestaurant 23人)である。また、7両編成は1等車2両、1等+BordBistro 1両、2等サービス車1両、2等車3両で構成され、全長200m、定員は456人 (内1等77人、食堂車17人)となる予定である。12両編成に2等動力車を1両増結して登場する予定の13両編成は全長373mで、定員は920人となる。

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<技術関係>
 ICE 4の車体は鋼製で、車体長は従来の車両における標準的なサイズである25mに比べて、先頭車29,106m、中間車28,750mと長いことが特徴である。これによりデッキや機器類のスペースが削減され、車内空間を拡大させることにも成功した。その車内空間はモデュール構造となっており、内部に構造物がないことから、レイアウトや調度を自在に設定でき、変更も簡便に行うことが可能である。一方で車体幅は2,852mmで、ICE 1やICE 2の中間車に比べ170mmと縮小されており、車両の両端がやや絞られている。そのため、駅停車中、出入り口にはステップが展開する。なお、車内幅は2,642mmである。ICE 4は気温-30℃から45℃まで対応するよう設計されており、2015年にWien-Arsenalの施設で行われた試験で確認された。

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 動力台車はICE 3で採用されているSiemens製SF 500を改良したものである。一方、付随車用の台車にはBombardierのFlexx Ecoシリーズが採用された。この台車は軸受けが内側にあるのが特徴で、大幅な軽量化を実現した。この台車の採用で、ICE 4の車体増量全体を5%削減された。

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特徴的な付随車の台車

 先頭車にはScharfenberg式自走密着連結器Typ 10が装備された。連結器カバーは407形Velaro Dと同様、左右にではなく上下に開く構造となっている。7両編成バージョンでは2編成併結での運用が可能である。
 制動装置はフランスのFaiveley Trasport製で、回生ブレーキ付きの空気ブレーキと渦電流ブレーキが装備されている。集電装置は編成あたり2か所 (12/13両編成: 4812.0形・6412.0形、7両編成: 3812.2形)に搭載され、ドイツ・オーストリアに対応するパンタグラフに加え、スイス直通に対応する編成についてはシューの狭いスイス対応パンタグラフも搭載されている。

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 Powercarと呼ばれる動力車には変圧器・変換器・冷却装置・4基の主電動機が集中配置され、1両の定格出力は1,650kWである。変圧器と変換器は油冷式および水冷式の共通の装置により冷却される。編成出力と最高速度は7両編成で4,950kW・230km/h、12両編成で8,250kW・250km/hである。12両編成の最高速度はICE 1やICE 2の280km/hを下回るが、ICE 4はこれらの車両に比べ加速性能に優れ、同様のダイヤで運転可能とされている。12両編成に動力車を1両追加する13両編成では出力9,900kW・最高265km/hに引き上げられる予定である。この目的としては遅延時の回復運転、さらに最大40パーミルの急勾配が存在するKöln/Rhein-Main高速新線での運用を円滑に行う点が挙げられる。
 制御装置は柔軟な車両構成に対応するSiemens製のSIBAS PNが採用された。列車内の伝送ネットワークはEthrnet Train Bus (ETB)とPROFINETから成り、いずれも100 Mbit/sのEthernetを用いている。保安装置はPZB・LZBに加え、最新のEuropean Train Control System (ETCS)にも対応している。
 ICE 4は車内空間の拡大による定員増に加え、空気力学的に改良されたデザイン、さらに大幅な軽量化を実現したことで、従来のICEより乗客あたりの消費エネルギーが20%以上削減された。



 なお、ICE 4の外観デザインは2015年にRed Dot Design Award、2016年にGerman Design Awardを受賞している。また、先頭デザインから、現地ではアンジェリーナ・ジョリーと呼ばれているとのことである。

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<車内設備>
 ICE 4はモデュール構造で、内部に構造物がなく、レイアウトや調度を自在に設定でき、変更も簡便に行うことが可能な設計となっている。座席配置は、1等は1+2列、2等は2+2列である。2等ではコンパートメントはなく開放客室のみで構成されているが、20%の座席はテーブルを挟んで向かい合わせに配置されている。1等車の車端部は簡易な仕切りを設けて、テーブル付きで向かい合わせの座席を配置してコンパートメント風にしてあり、また1等・2等先頭車の運転室のすぐ後ろも1等6席、2等8席のコンパートメント風の一角となっている。

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1等車室内

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1等車室内

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2等車室内

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デッキ

 シートピッチは1等930mm、2等856mmで、ICE 4では新型シートが採用され、側面上部に座席番号、さらにLEDの予約表示が設けられた。1等席は37度、2等席は32度倒すことが可能である。車体幅が縮小されたことで、2等席の座席幅は460mmと従来車に比べ縮小されており、また中央の通路幅も狭くなっている。各座席にはコンセントが設けられた。

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1等席

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2等席

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2等席
 ICE 4の客室側窓は1,924 mm x 780 mmに拡張された。車内照明はLEDが採用され、時間や天候に合わせて明るさや色調を多様に調整が可能となった。
 ICE 4の特徴として、従来のICEに比べて大幅に荷物棚を増設した点が挙げられる。また、客室天井やデッキには案内ディスプレイが設けられ、停車駅・時刻表・接続列車・現在地・速度などが表示される。

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荷棚

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天井に設置された案内ディスプレイ

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デッキの案内ディスプレイ

 ICE 4には2等先頭車に8台の自転車搭載スペースも用意された。ICEへの自転車搭載設備はICE-Tの一部にごく短期間設置されていた時期があったのみであったが、ICE 4では本格的に設定された。なお、このスペースの利用には事前予約が必要である。

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 トイレは食堂車とサービス車を除く各車両の車端部に、中央通路を挟んで両側に設けられ、従来に比べ狭くなっている。

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 サービス車は通常の2等席に加え、車椅子対応席や身障者対応トイレ、家族用個室、乗務員用個室、乗務員用休憩スペースが設けられている。

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車椅子用スペース

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身障者対応トイレ

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家族用個室

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乗務員用個室

 12両編成の食堂車BordRestaurantは売店・厨房・22席のレストランと21席の1等席から構成される。売店は従来からデザインが一新され、大きなショーケースが設けられた。またレストランのインテリアもこれまでのICEから変更されている。

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売店

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売店部に設けられた立席カウンター

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レストラン

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レストラン

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食堂車の1等席部分

 なお、7両編成の食堂車はBordBistroと2等席から構成される予定で、12両編成に比べて食堂部分は縮小されるものと予想される。
 車両は車内WLANが設けられ、乗客は無料でWLANを利用可能である。また、モバイル無線増幅器も搭載されている。また、車両内外の案内用ガイダンスサイン類はN+Pデザインが手掛けた新しいものが採用された。このガイダンスサインは他のICEや地域輸送用列車でも順次使用される予定である。

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ガイダンスサイン

<運用>
 2016年9月14日Berlin Hbfの地下ホーム2番線にICE 4の正式公開が華々しく行われた。この公開には9005編成が充当された。9月16日ドイツ連邦鉄道局EBAはICE 4の旅客営業を認可した。ICE 4の正式デビューは2017年12月とされていたが、その前に試験的に営業運転が行われることになった。この措置は407形 (Velaro D)でトラブルが相次ぎ、営業運転開始が大きく遅れた反省に基づくものであった。2016年10月31日より、ICE 1で運転されていたICE-Linie 25の以下の列車がICE 4での運転となった。
- ICE 581 (Hamburg – Würzburg – Nürnberg – Augsburg – München, 木曜を除く毎日)
- ICE 582 (München – Ingolstadt – Nürnberg – Würzburg – Hamburg, 毎日)
- ICE 786 (München – Augsburg – Nürnberg – Würzburg – Hamburg, 水曜を除く毎日)
- ICE 787 (Hamburg – Würzburg – Nürnberg – Ingolstadt – München, 毎日)
 この運用には主に9005編成と9006編成が用いられ、発生した問題は量産中の車両に反映された。ただし、試験的な営業運転ということで、ICE 1による運転となることも少なくなかった。
2017年春に特定区間で一部の車両に異常な振動が生じることが報道された。DBとSiemensはこの事実を認めた上で、安全性に問題はないとした。その後、車輪に改良が加えられた。

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Hamburg-Altonaで発車を待つICE 787

 2017年12月10日ダイヤ改正で、ICE 4は正式にデビューした。まずは5編成のICE 4 (9001-9003, 9005-9006編成)がICE-Linie 22 ((Kiel-) Hamburg – Hannover - Kassel-Wilhelmshöhe – Frankfurt – Frankfurt Flughafen – Mannheim – Stuttgart)とLinie 25 ((Kiel-) Hamburg – Hannover - Kassel-Wilhelmshöhe – Würzburg – Nürnberg – München)に投入され、ICE 4によって運行される列車も順次増加した。

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Frankfurt (M) Hbfに到着したICE 4

 2018年12月9日ダイヤ改正ではICE 4は25編成に増加し、運用区間はさらに拡大した。この改正では高速新線Erfurt – Nürnbergと高速新線Köln-Rhein/Mainでの運用も開始された。2019年1月現在の運用列車は以下の通りである。

ICE-Linie 11: Berlin Hbf – Leipzig - Erfurt - Frankfurt(M) – Stuttgart - München
ICE 593/594/692/693/694/695/697

ICE-Linie 22: (Kiel-) Hamburg – Hannover - Kassel-Wilhelmshöhe – Frankfurt (M) – Frankfurt (M) Flughafen – Mannheim – Stuttgart
ICE 573/574/575/576/973/1094

ICE-Linie 25: (Kiel-) Hamburg – Hannover - Kassel-Wilhelmshöhe – Würzburg – Nürnberg – München
ICE 581/582/786/787/788/881/882/885/888/981/1086

ICE-Linie 28: (Hamburg-) – Berlin – Leipzig – Nürnberg -Erfurt – München
ICE 500/501/502/503/504/505/506/507/508/509/602/603/907/909

ICE-Linie 30: Hamburg - Bremen – Münster – Essen –Düsseldorf – Köln
ICE 609/1028

ICE-Linie 42: (Hamburg-) Dortmund – Köln - Frankfurt (M) Flughafen – Stuttgart - München
ICE 514/515/610/611/612/613

 2018年6月以降、ICE 4の運用列車はさらに増加する予定である。
今後、ICE 4はドイツ国内だけでなく、周辺国にも直通することが計画されている。すでに2007年以降9004・9007編成がスイスでの試運転を行っており、2019年12月からICE 1のスイス直通運用をICE 4で置き換える予定である。また、9014編成がオーストリアでの試運転を行っている。

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Frankfurt (M) Hbfで発車を待つICE 4

<その他>
 従来、ICE用車両にはドイツの都市名が付けられていたが、ICE 4ではドイツに関連する人物名を付けることとなった。すでに2016年11月には宗教改革500周年を記念して、9006編成が“Martin Luther“と命名されていたが、2017年にはアンケート結果を元に、ICE 4に命名される25の人物名が選出された。その中にはアンネ・フランクの名前があったが、このことは鉄道で強制収容所へ送られた歴史を想起させ無神経である、との批判を浴びることとなった。結局、この計画は撤回された。代わりに、ICE 4には州名が付けられることとなり、2018年7月に9018編成が“Freistaat Bayern“、11月に9025編成が“Nordrhein-Westfalen“と命名された。

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9006編成はMartin Lutherと命名された

 ICE 4の塗装はこれまでのICEシリーズと同様、ライトグレー (RAL 7035)をベースに赤色Verkehrsrot (RAL 3020)、裾部はグレー (RAL 7039)となっているが、2018年2月に9012編成の帯が緑色となった。これは環境負荷を軽減していることをアピールするための企画であった。9012編成はすぐに赤帯に戻されたが、この企画が好評だったのか、2018年11月から9024編成が緑帯を纏っている。

<将来の計画>
 DBは当初ICE 4の導入でIC客車やICE 1・ICE 2を置き換えるとしていたが、最近になってIC客車210両のリニューアル計画、さらにICE 1のリニューアルと短編成化を発表しており、実際の置き換え計画は不透明な状況である。2030年までにはドイツ国内の主要駅には1時間2本以上のICEを設定するなどネットワークを更に増強する計画もあり、今後さらに追加発注される可能性もある。
 ICE 4はDBの新しいフラッグシップとして増備が進められ、まもなくドイツの長距離旅客輸送で中心的な役割を果たすようになることは間違いないであろう。

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<参考>
Dieter Eikhoff: ICE - Geschichte-Technik-Einsatz. Transpress, 2018
ICE 4 Daten und Fakten. Deutsche Bahn
ICE 4 Data Sheet. Siemens AG, 2016
Eisenbahn Kurier 各号
Eisenbahn Modellbahn 各号
Deutsche Bahnホームページ (www.bahn.de, www.deutschebahn.com)
Siemens Mobility ホームページ (www.siemens.com)
Railcolor News (railcolornews.com)
Railway Gazette (www.railwaygazette.com)
Railway Technology (www.railway-technology.com)
Drescheibe-Online (www.drehscheibe-online.de)
ICE-Treff (www.ice-treff.de)
www.elektrolok.de
Fernverkehrsseiten von Marcus Grahnert (www.grahnert.de)
Die schnellsten Züge der Welt (www.hochgeschwindigkeitszuege.com)
Wikipedia ドイツ語版
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