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Rhein-Ruhr-Express (RRX) [ドイツ鉄道 列車]

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 ドイツ北西部、Nordrhein-Westfalen (NRW)州はヨーロッパでも最も人口の集中している地域である。特にラインラント地方とルール地方の主要都市を結ぶKöln – Düsseldorf – Duisburg – Essen – Bochum – Dortmund間はドイツでも利用客数が多い路線の一つであり現状でも列車密度も高いが、慢性的な混雑と遅延が課題になっている。そこで、この路線をコアに周辺都市をカバーする地域輸送ネットワークを改良・整備し利便性を向上させるプロジェクトが開始され、Rhein-Ruhr-Express (RRX)と命名された。RRXプロジェクトは単なる新しい列車の導入計画ではなく、大規模なインフラ整備も含まれており、連邦政府からも優先度の高いプロジェクトと位置付けられ、ドイツでも最大級の鉄道プロジェクトである。NRW州の地域公共交通の輸送量は年々増加しているが、このプロジェクトが完成すれば自家用車から公共交通へのシフトが更に進むと予想されている。
 2000年代半ばに連邦政府・NRW州政府・DBの間でRRXプロジェクトに関する枠組み合意が締結された。インフラ整備の計画と実行はDBのインフラ部門であるDB Netzが中心となり、DB Station & Service・ DB Energieも参加して行われる。Köln – Dortmund間は(1) Köln – Leverkusen – Langenfeld、(2) Düsseldorf、(3) Düsseldorf - Duisburg、(4) Mülheim、(5) Essen – Bochum、(6) Dortmundの6つの区画に分けられ、連邦政府の出資で、DB Netzによって順次線増工事などが行われる予定である。また、Köln – Dortmund間以外の駅についても、NRW州政府の出資でDB Station & Serviceによって改良工事が実施されることとなっている。
 インフラ整備の完成は2030年~2035年になると見込まれており、その際には現在のREネットワークに代わり、以下のRRXネットワークが整備され、コアとなるKöln – Dortmund間では15分間隔でRRXが運行することが計画されている。

RRX 1
Aachen – Köln – Düsseldorf – Essen – Dortmund

RRX 2
Aachen – Köln – Düsseldorf – Essen – Dortmund – Hamm – Paderborn – Kassel

RRX 3
Köln/Bonn Flughafen – Neuss - Düsseldorf – Gelsenkirchen – Dortmund – Münster

RRX 4
Koblenz – Köln – Düsseldorf – Essen – Dortmund – Hamm – Bielefeld

RRX 5
Düsseldorf – Duisburg – Oberhausen – Wesel

RRX 6
Koblenz – Köln – Düsseldorf - Essen – Dortmund – Hamm – Bielefeld – Minden

RRX 7
Düsseldorf – Duisburg – Essen – Gelsenkirchen – Münster - Osnabrück

 このRRXネットワークの実現はインフラ整備の完了を待つ必要があるが、それに先立って2016年12月のダイヤ改正でNRW州をカバーするRegionalExpress (RE)のネットワークに修正が加えられ、2018年12月以降、段階的に以下のRE路線を順次RRXによる運行へ変更することとなった。

RE 1
Aachen – Köln – Düsseldorf – Essen – Dortmund – Hamm

RE 4
Aachen – Mönchengladbach – Düsseldorf – Wuppertal – Hagen – Dortmund

RE 5
Koblenz – Köln – Düsseldorf – Duiseburg – Wesel

RE 6
Köln/Bonn Flughafen – Neuss - Düsseldorf – Gelsenkirchen – Dortmund – Hamm – Minden

RE 11
Düsseldorf – Essen – Dortmund – Hamm – Paderborn – Kassel-Wilhelmshöhe

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DB RegioのRE

 RRXの運行は、Verkehrsverbund Rhein-Ruhr (VRR)、Nahverkehr Rheinland (NVR)、Nahverkehr Westfalen-Lippe (NWL)の3つの運輸連合が、Nordhessischen VerkehrsverbundおよびSPNV-Nordと協力して管轄する。RRXには専用の新型車両が用意され、運輸連合VRRが保有して運行会社にリースすることとなった。
 RRXの運行権は入札で決定され、2015年6月16日RE 1・RE 11の運行権をオランダ鉄道NS傘下のAbellio NRW、RE 4・RE 5・RE 6の運行権をイギリス資本のNational Expressが獲得したことが発表された。なお、運行権の期限は2033年12月である。DB Regioが落札に失敗した背景として人件費が高い点が挙げられている。NRW州においては、DB RegioはS-Bahnの運行権の落札にも失敗しており、将来的にはNRW州におけるDB Regioのシェアは50%未満に低下する見込みである。

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 2015年3月16日、RRXに運用される車両の調達先としてSiemensが選ばれ、新型電車Desiro HC 82編成が発注された。車両調達に加え、32年間のメンテナス契約を結ばれ、17億ユーロに及ぶ大型契約となった。後に納入遅れに対する補償として無償で2編成が追加され、最終的に84編成が製作される予定である。
 Siemensは地域輸送用車両の電車または気動車を“Desiro“ブランドで展開しており、ドイツのtrans regioやオーストリアのÖBB向けに製造されたDesiro ML、スイスSBB向けの総2階建て電車Desiro DDなど様々なバージョンの車両を製造してきた。Desiro HCはDesiroファミリーの最新バージョンの電車で、形式は462形である。
 Desiro HCは乗客の快適性を高めつつ、高い収容力を確保することが重視され、先頭車が1階建て動力車、中間車が2階建て付随車となった点が最大の特徴である。Siemensは既に総2階建て電車を製造した経験があるが、先頭車を動力車とした場合、技術的な制約が多い割に収容力の点でのメリットが小さいと考えられたことから、このような車両構成が選択された。RRX向けのDesiro HCは2階建て中間客車2両を挟んだ4両編成となっているが、中間車を増やすことで5両編成または6両編成とすることも可能である。RRXでは通常2編成併結で運用されるが、最大3編成の併結運転も可能な設計となっている。

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 Desiro HCの車体はアルミニウム製で軽量化が図られている。車体幅2,820mm、車体長は先頭車26,226mm、中間車25,200mmで、RRX用の4両編成では編成長は105,252mmとなる。軸配置はBo‘Bo‘+2‘2‘+2‘2‘+Bo‘Bo‘で、主要機器は先頭車の屋根に搭載されており、車内スペースを確保するとともに、メンテナンス性向上も図られている。編成重量は200tである。正面デザインはまず空気力学的に望ましい形状を決められ、その上でライト類など各パーツの配置が決定された。Desiro HCの正面デザインは全く新しいものであるが、従来のDesiro MLのイメージを踏襲している。側面については、編成としての統一感が損なわれないよう配慮され、1階建て先頭車と2階建て中間車の高さが目立たないよう先頭車はパネルで嵩上げされている。なお、車体はTSIおよびEN15227に準拠した衝撃吸収構造を有している。
 編成での出力は4,000kWで、最高速度160km/h、加速度は最大1.1 m/s2の性能を有する。台車は、動力車ではSF 100形、付随車ではSF 500形空気ばね台車が採用されている。Train Control Network 車内情報制御伝送系はイーサネットをベースとしている。
 車内もモジュール構造となっており、1等席・2等星・自転車用スペースなどを路線事情に合わせて設定できる。RRX用編成では片側の先頭車の2/3のスペースに2+2列で36席の1等席が設定された。2等席は364席で、座席定員は400名である。座席は1等・2等とも2+2列配列のクロスシートが基本であるが、2等2階席の階段付近に通路を挟んで座席を向かい合わせに配置された一画があり、また先頭車の一部は自転車などの搭載を考えて折り畳み椅子となっている。1等車では全席、2等車では2席に1席の割合で電源ソケットが用意されている。さらに1等席には読書灯・折り畳みテーブルも付属しており、2等席も一部では折り畳みテーブルが設けられている。インテリアは1階建て車両・2階建て車両に関わらず、極力統一感があるよう配慮されたが、特に2階部分は側窓がカーブしていることもあり圧迫感が大きく、またスペースの制約から荷物棚も小さいという欠点がある。

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 折り畳み椅子が設けられたスペースには最大18台の自転車搭載が可能である。Desiro HCは、移動困難者でも快適に利用できるようEUが定めた規制であるTSI PRMに準拠している。乗客の移動や乗降をスムーズにするため、乗降扉は幅の広いものとなり、デッキや通路は極力広く取られている。乗降口の高さは先頭車800mm、中間車730mmで、ヨーロッパの標準である高さ760mmおよび550mmのプラットフォームに対応している。特に先頭車は760mmプラットフォームからフラットな乗降が可能で、車椅子や乳母車などを用いる乗客に対応している。トイレは中間車に1か所ずつ設けられた他に、2等車側先頭車には身障者対応のユニバーサルトイレが設置されている。

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 車内照明はLEDである。空調装置は三菱電機が受注し、乗車人数に合わせてエネルギー消費を最適化する機能を有していることが特徴がある。。車内各所には情報案内用の液晶モニターが設置されている。また、セキュリティ向上のため、高解像度のCCTV監視カメラが設けられている。RRXではWLAN設備が設けられ、無料WiFiサービスが提供される。

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 RRXのカラー・コンセプトはグレーを基調にオレンジ色をアクセントとしており、ドットマトリックスを用いているのが特徴である。外観では、1等車側の先頭車正面がオレンジに、2等車側が黒色となっているのが目立つ。RRX用の外観デザインは2009年にはRE 3に運用されていたEurobahnのStadler製Flirtの外観に試験的に施されていたが、このデザインは実車の開発の過程で少しずつ変更が加えられている。インテリアデザインにおいては、当初案に比べオレンジ色の使用は抑えられてグレーを基調とすることで、高級感のある内装となっている。

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 RRXのデザインを担当したのはTRICON DESIGN AGである。同社のRoland Dressel氏が記した専門誌の記事によると、RRX向けのDesrio HCのデザイン・プロジェクトは、「Siemensの新車両Desiro HCのデザインすること」・「Desiro HCのデザインをRRXの要件に合わせて調整すること」・「RRXのデザインコンセプトの実行すること」の3つの要素からなっており、全く新しいコンセプトの列車をデザインしつつ、RRXという新しいブランドの作り上げたこのプロジェクトは、デザイナーにとっても非常に魅力的であった、としている。その高品質なデザインは高く評価され、2016年iF Design Award、2017年German Design Awardを受賞している。
 Desiro HCの製造はKrefeld・Wien Simmering・Graz・Wegberg-Wildenrathの各工場で行われる。なお、Desiro HCはRRX以外からも発注されており、2019年7月現在、DB RegioがNetz Rheintal (Freiburg・Basel方面)用に4両編成15本、Go Ahead GermanyがAugsburg向けに5両編成12本、Ostdeutsche Eisenbahn GmbH (ODEG)がNetz Elbe-Spree 向けに6両編成21本・4両編成2本をそれぞれ発注している。さらにイスラエルからも24編成が発注されている。

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 2017年3月31日Krefeld工場でRRX向けDesiro HCの先頭車が姿を現した。5月にはWienで製造された2両の中間車がSiemensのテストセンターがあるWegberg-Wildenrathに到着し、ここで先頭車と連結されて4両編成となり、試運転が開始された。7月12日にはメディア向けに内装・外観が公開され、11月20日には本線での試運転が開始された。さらに2018年9月にはBerlinで開催されたInnoTransでRRX用のDesiro HCが公開された。
 2018年6月、Dortmund-Evingに操車場の跡地を利用して、RRX用の保守基地が完成した。保守基地の面積は70,000m2で、基地内の線路長は5.5kmに達する。保守基地は、6線の整備庫、3階建ての倉庫、清掃設備などから構成される。高性能3Dプリンターも備えられ、スペアパーツの迅速な補充を可能としている。この基地は徹底したデジタル化が推進されている点も特徴である。この保守基地は今後32年間、RRXの保守整備を担当することになる。
 2018年12月、連邦鉄道庁EBAよりRRX用のDesiro HCの営業運転に対する認可が下り、予定通り2018年12月9日ダイヤ改正でRE 11系統でRRXの営業運転が開始された。運行を担当するのはAbellio NRWで、まずは15編成のDesiro HCがこの運用に就いた。2019年6月9日よりRE 5系統もRRXによる運行となった。運行を担当するのはNationalExpressである。なお、これに先立つ5月9日よりDB Regioが運行していたRE 5系統の1運用が乗務員の習熟のため、RRXによる運行となっていた。RRXはこれまでおおむね順調に営業運転を行っている。定評のあったDB Regioの2階建て客車に比べて快適性で劣るのではないか、という批判もあるが、乗客には概ね好評をもって迎えられている。

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 2019年12月からはRE 6系統 (NationalExpress)、2020年6月からはRE 1系統 (Abellio)、2020年12月からはRE 4系統 (NationalExpress)がRRXによる運行となる予定で、RRXがNRW州の地域輸送で中心的な役割を担うことになる。

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 RRXはヨーロッパでも最大級の都市圏の地域輸送を、運輸連合が主体となって整備する壮大な鉄道プロジェクトであり、今後の動向も注目される。

<参考>
Roland Dressel. ”High Capacity Design – Die Gestaltung des Triebzuges Desiro HC für Siemens und den Rhein-Ruhr-Express (RRX)”. EI-SPEZIAL, Sep. 2017.
Eisenbahn Kurier 各号
Eisenbahn Modellbahn 各号
RRX ホームページ (www.rrx.de)
Siemens Mobility ホームページ (www.siemens.com)
Deutsche Bahnホームページ (www.deutschebahn.com)
TRICON ホームページ (www.tricon-design.de)
RP ONLINE (rp-online.de)
Der Western (www.derwesten.de)
Railcolor News (railcolornews.com)
Railway Gazette (www.railwaygazette.com)
Railway Technology (www.railway-technology.com)
Drescheibe-Online (www.drehscheibe-online.de)
Lok Report (www.lok-report.de)
www.elektrolok.de
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JR浜松

日本でいうと215系が近い感じですね。
自転車置き場は日本にはないですが、持ち込みOKの列車は存在します。すごいプロジェクトですね!デザインも♪
by JR浜松 (2019-07-28 12:11) 

HUH

コメントを有難うございます。
確かに車両の特徴は何かと215系に近いですね。あちらは4編成だけ、今は完全な脇役扱いですが。昔、快速で日中走っていた頃、何度か乗ったのが懐かしいです。デザインはRRXに軍配をあげたいですが。
by HUH (2019-07-28 17:04) 

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