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9月5日 Daejeon → Seoul → Tokyo [韓国鉄道旅行 2010]

 大田駅では30分程の乗り換え時間がある。デジタルカメラのバッテリーがいよいよ切れそうなので、この乗り換え時間を利用して電器店を探すことにする。Sさんが付きあってくれて、一緒に駅前に出るが、電器店らしき店は見つからない。5分程駅前を見て回ったところで諦め、地下街へ向かう。地下街は地上以上に活発で商店が並んでおり、特に携帯電話店が目立つ。運良く、デジタルカメラを扱うお店を無事に発見したが、私のデジタルカメラに合うバッテリーは在庫していなかった。しかし、この際ポケットに入るようなコンパクトなカメラを購入しても良いと考えていたので、新品を何点か見せてもらい、Samsungのデジタルカメラを購入した。
 大田駅の駅舎は思ったよりも小さかったが、利用客は多く、賑やかである。この駅にもコンコースにはNゲージのレイアウトが設置され、KatoのE231系が置かれていた。鉄道趣味のない国と言われる韓国で、これだけ鉄道模型を目にするとは意外なことである。あとは韓国の鉄道車両の模型が登場したら面白いのだが。

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 ホームに下りると、まもなくソウル行のムグンファが入線してきた。反対のホームには釜山方面に向かうムグンファも到着した。牽引機はどちらも8200形である。京釜線のムグンファは編成が長いが、大半の座席は埋まっている様子で、KTXが登場した現在も庶民の足としてムグンファが重要な存在であることが分かる。

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● KTX132 (Daejeon → Seoul: 159.8km)

 12時55分、我々が乗車するKTX132が入線してきた。旅の最後を飾るのはKTX-サンチョンである。

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 昨日はソウルから釜山まで特室を利用したが、今日は一般室である。事前に確認したところ、KTX132は特室・一般室とも満席である。指定された5号車8D席に座る。列車は3婦の暮れの12時58分に発車する。
 大田操車場で湖南線と合流すると、続いて在来線と分かれ、高速新線へと入っていく。甲川に沿って走る。左側の高層住宅にはExpoの文字がある。大田は1993年に万博が開催され、甲川に沿った一帯がその会場跡なのである。

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 列車は滑らかに加速していく。250km/hを超えると、車内モニターには現在スピードが表示される。KTX-サンチョンは編成重量403t、出力8,800kWで、重量あたりの出力は従来のKTXを凌駕しており、このスピード域でも加速はなかなか鋭い。
 一般室の座席もなかなか快適である。KTX-サンチョンでは客車の車体幅が2,904mmから2,970mmに拡幅され、シートピッチも930mmから980mmに広げられたことで、全座席が回転可能になった。シートは灰色地に花柄があしらわれ、上品である。セマウルのような広さはないものの、在来型のKTXに比べ格段の進歩を遂げている。特室の内壁は木目調であったが、一般室はFRPとなっている。しかし、間接照明の効果もあり、なかなか上品な雰囲気である。惜しむらくは、デッキと客室内とのデザインに一体感がなく、この間に断絶があろうか。

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 車窓にはで田園風景が広がる、天気は曇りだが、ところどころで霧が出ている。列車は290km/h以上のスピードで疾走しているが、車内はいたって静か、揺れも少ない。車内モニターは300km/hを超え、305km/hに達するが、まだまだ余裕を感じさせる走りである。

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 天安牙山もトップスピードを維持したまま通過する。しばらくして、一旦スピードが200km/h台前半まで落ちるが、再び加速、280~300km/hでソウルへ向け疾走する。高速新線上には防音壁が設置されている区間も多いが、それでも日本と似ていながら、どことなく異なる韓国の車窓風景を眺めるのは楽しい。

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 減速しながらトンネルに入ると、まもなく光明駅を通過する。再びトンネルを抜けると激しい雨が降っている。始興連絡線分岐で在来線と合流すると、列車は100km/h程度で首都圏電鉄の列車と並走する。

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 永登浦を通過し、昨日撮影を楽しんだ新吉も通過すると、さらに減速し、ゆっくりと漢江を渡る。



 龍山を通過し、13時51分定刻にKTX132はソウルに到着する。8割方の乗客が席を立ち、我々もここで下車、総走行距離1307.1kmに及んだ韓国鉄道旅行の最後を飾るにふさわしい、素晴らしいKTX-サンチョンの旅を終えたのであった。
 KTX132は車庫のある京義線の幸信が終着駅である。反対側のホームに移動し、14時01分に発車していくKTXの発車を見送る。

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 買い物に行くSさんと別れ、ソウル駅構内の韓国料理店に入る。遅めの昼食をピビン麺で済ませた後、地下鉄1号線で鐘路駅へ向かう。ソウル市内は相変わらずの激しい雨、少しは観光でもしたかったのだが諦め、韓国の新しい鉄道雑誌”Railers”を探すことにしたのである。しかし、鐘路駅周辺の大きな書店を3店巡るが、どこも在庫はなく、今回は諦めるしかなさそうだ。
 そうこうするうちに、雨は小ぶりになっていた。ここは景福宮に近い。せっかくなので、観光していくこととする。世宗大路へ出ると、大きな世宗坐像が現れる。世宗はハングルを制定したことで知られ、現在も韓国史上最高の名君の誉れ高い。

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 その後方に、景福宮、さらに奥には韓国の大統領府、青瓦台も姿を見せる。

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 復元されたばかりの光化門をくぐり、景福宮の中へと進む。丁度行われていた衛兵の交代式を見て、正殿にあたる勤政殿へ行く。それにしても景福宮は広い、広すぎて到底回りきれず、お土産を買ったところで引き上げることにする。

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 光化門を出てタクシーを拾い、T師匠の宿泊するプレジデントホテルへ行く。ここで、デジタルカメラのバッテリーの充電を兼ねて、一休みする。
 T師匠はもう一泊するが、私はこれから金浦空港発の便で帰国する。早めの夕食を摂って、空港へ向かうこととし、17時過ぎには出発する。まず地下鉄1号線で市庁から新吉駅に移動する。最初は新吉駅で適当に夕食を摂った後、5号線で金浦空港に向かうつもりであったが、乗り換え駅が悪い。鉄道ファンとしては本能的に、夕食よりも、列車の撮影を優先してしまう。昨日と撮影場所は全く同じ、時間帯も同じであるが、少し引き気味に撮影する。

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KTX

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ヌリロ

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セマウルDHC

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ヌリロ

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KTX

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7300形 + セマウルDHC

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KTX-サンチョン

 KTX-サンチョンの満足の出来る一枚を撮ったところで撤収、T師匠とともに5号線に乗る。金浦空港までは30分弱である。最初は空席がなかったが、ソウル中心部から遠ざかると共に車内は空いてくる。座席はロングシート、しかもシートモケットはなく、金属がむき出しだが、思った程冷たくはない。おそらく断熱材が工夫されているのではないか、というのはT師匠の推測である。

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 金浦空港駅から一昨日も通った連絡通路を歩き、5分程で国際線ターミナルへ行く。時間は18時過ぎである。これから搭乗するANAのNH1294便の出発まではまだ2時間程ある。搭乗手続きカウンター前には行列が出来ていたが、流れはスムーズで、15分ほどで手続きは完了。Sさんとも合流し、韓国での最後の夕食を摂ることにする。
 ターミナルビル内の韓国料理店に入り、注文したのはテールスープである。もう少し辛いものが欲しい気もしたが、これはこれで美味しかった。



 金浦空港のターミナルビルの中にはフードコートもある。こちらの方が種類が豊富で楽しめたかもしれない。お土産も購入したところで、もう一泊するT師匠と別れ、出国手続きを済ませて搭乗口へ向かう。
 NH1294便はB777による運航である。出発15分前に搭乗開始、機内はほぼ満員となった。定刻に出発、成田空港のように滑走路まで延々と走ることもなく、スムーズに離陸する。エネルギーに満ち溢れた、韓国の夜景もまもなく雲に隠れ、飛行機は一路東へと向かう。

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 途中何度か大きく揺れたものの、サービスは通常通り行われ、パスタの機内食も出た。赤ワインとともに最後の食事を済ませるうちに飛行機は日本上空へ。22時15分、羽田空港に定刻に到着した。

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 韓国の鉄道は予想以上に充実していた。秒単位で正確という程ではなかったが、遅れてもほんの数分で、最近のヨーロッパに比べれば高いレベルで定時性が確保されていたし、車両についても、様々な国から車両を導入する中で技術力を高め、独自の発展につながりつつあることが実感できた。車内設備も非常に快適で、カフェカーに代表されるような斬新なアイデアが取り入れられている点も印象的であった。趣味的にも、大陸の鉄道の雰囲気を持ち、多彩な国の車両が一緒に走り回る姿を眺めることは大変興味深く、近い将来の再訪を期して、2泊3日の慌ただしくも楽しい韓国鉄道旅行を終えたのであった。

9月5日 Cheongnyangni → Jecheon → Daejeon [韓国鉄道旅行 2010]

 目が覚めると5時半である。昨日の深酒でどうにも眠いが、慌ただしく準備をして、6時15分にはロッテホテル・ソウルをチェックアウトする。隣のプレジデントホテルに行って、T師匠の部屋に荷物を預けて、身軽になったところで出発する。

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ロッテホテルソウル

 今日はソウル第3のターミナル、清涼里駅から旅を開始する予定である。清涼里駅は地下鉄1号線で行くことができるが、ソウルの朝の風景を見たいので、タクシーで向かうことにする。まだ6時半、陽も上りきっていない時間であるが、交通量は多い。ソウルの街の風景は、看板がハングルであることを除けば東京と大きくは変わらないが、東大門をはじめ、時々現れる歴史的な建造物がこの街の魅力を与えている。屋台で朝食を摂りながら大きな声で話す人々の姿も目に入り、ソウルの街に溢れるエネルギーに触れることが出来て楽しい。

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 それにしても、ソウルはバスが多い。東京は最も路線が集中する場所でも2、3台が団子になって走って来る程度であるが、ソウルは何台も続けてやって来て、しかも途切れない。韓国はバス社会であることを実感する。

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 ホテルから20分ほどで清涼里駅に着く。清涼里駅は中央線や京春線などが発着するソウルの西のターミナルである。駅舎はソウル駅と同様、ガラス張りの立派な建物に改装されているが、KTXもセマウルも設定されておらず小じんまりとしている。とはいえ、駅前はよく整備され、ロッテ百貨店も併設されている。

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 駅構内は広々としているが、人影はまばらである。窓口も空いており、インターネット予約した際の予約票を差し出すと、今日の乗車券をすぐに発券してもらえた。まだ時間があるので外に出ると、清涼里駅構内の車庫が見渡せた。 

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●Mugunghwa1831 (Cheongnyangni → Jecheon: 150.7km)

 売店で飲物を買い、ホームに降りる。これから乗車する7時10分発の江陵行ムグンファ1831は既に入線していた。隣のホームでは京春線春川行のムグンファも停車中、春川行はディーゼル機関車牽引であるが、こちらは電気機関車の牽引である。

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 我々が乗車するムグンファ1831は8200形電気機関車の8253号機が牽引する。8200形はSiemens製のEuroSprinterシリーズのES64F型に相当し、ドイツ鉄道の152形を韓国仕様に変更した機関車である。Korailは1998年に大宇重工業によるノックダウン生産で、EuroSprinterを2両導入した。この2両は8100形を名乗り、量産に向けた試作機と位置付けられていた。8200形は8100形での経験を元に、韓国における運転特性に合わせて改良され、Siemens、および現代ロッテムによるノックダウン生産により、83両が製作された。制御装置はSiemensのSIBAS32が採用され、スイッチング素子はGTOサイリスタである。定格出力1,300kWの主電動機が4台搭載され、出力5,200kW、引張力330kNで、最高150km/hの性能を誇る。8200形は現在、電化区間では客車列車牽引の中心的な存在として、韓国各地で活躍している。ドイツ鉄道ファンの私にとって、この8200形牽引のムグンファの旅は、今回の旅行の中でも最大の楽しみであった。発車前に機関車を眺める。152形と同様、シンプルな造形の中に力強さがみなぎり、これから始まる列車の旅に心を躍らせる。

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 ムグンファ1831は機関車の後ろに普通席車2両、カフェカー、普通席車2両、特室車、最後尾に電源車を連結した客車7両の編成である。8200形は客車用電源を搭載しており、本来電源車は不要であるが、ディーゼル機関車による代走に備えて電源車の連結が残されている。ムグンファのダイヤもディーゼル機関車での代走が可能な設定になっているものの、遅延時には8200形の高性能が活かされるそうである。
 我々は電源車の前に連結された特室を予約していた。特室の客車は編成の中では唯一コルゲート入のステンレス客車、どうやらセマウル用客車を格下げした車両のようだ。車内も昨日乗車したセマウルのDHCにそっくりである。特室は空いていて、乗客は我々3人の他は欧米人の夫婦と、他に2、3人のみであった。

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 列車は7時10分定刻に発車した。隣の電源車の音が聞こえてくるが、気になる程ではなく、車内は静かである。列車は高層住宅が立ち並ぶソウル都市圏を80km/h程で走る。このあたりは助走区間と行ったところか。

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 中央線は清涼里と龍門までの59.9kmは、首都圏電鉄中央線と線路を共用しており、電鉄線で活躍する321000系と何度もすれ違う。321000系は5000系、6000系から再編成された形式で、前面は「新トングリ」である。
清涼里から15分、左から漢江が近づいてくると、最初の停車駅、徳沼に到着する。徳沼までの区間は2005年12月に首都圏電鉄中央線が最初に開業した区間である。わずかな乗車があったのみで、ムグンファはすぐに発車する。

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 徳沼からは右には漢江が寄り添い、その向こうには高層住宅が立ち並ぶ。8200形にとっては7両の客車編成は大きな負担ではない様子である、列車は100km/h以上で快走する。車窓を眺めていると、至る所に路線改良の跡がある。どうやら川に沿った曲線区間をトンネルの新線に切り替えたようである。トンネルポータルも、フランスやドイツの高速新線に見られる、円筒を斜めに切ったようなデザインであり、トンネルがまだ新しいものであることが分かる。
 二日酔いで食欲はあまりないが、昨日屋台でサービスしてもらった海苔巻を朝食に食べる。韓国の海苔巻、キムパはゴマ油の香りが効いてとても美味しい。駅の売店でも、コンビニでも屋台でも、どこでも売られている定番の軽食だが、それもうなずける。
 このあたりは北漢江と南漢江が合流するあたりである。列車は北朝鮮・春川から流れてきた北漢江を渡り、南漢江に寄り添うように走る。車窓風景もややのどかになってきた。

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 電鉄線の駅は開業後5年も経っていないこともあり、どこも新しい。通過線が設けられていることもあり、中央線の線路設備はなかなか充実している。再び市街地が広がると、楊平に到着する。

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 楊平には数分間停車し、発車は定刻より3分遅く7時54分であった。楊平を出ると、車窓には農村風景が広がり、連なる山々にもやがかかって、まるで水墨画のように美しい。

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 10分ほどで龍門に停車する、ここは首都圏電鉄中央線の終点であるり、車庫が併設されている、今後、首都圏電鉄はさらに延伸される予定とのことである。

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 中央線のムグンファは大半の列車はこの先、一部の駅のみに停車するが、我々が乗車するムグンファ1631は全ての旅客営業駅に丁寧に停車する。龍門から先は曲線が多く、速度制限が設定されている箇所も随所にある。龍門の次の砥平からは単線区間、ローカル線の風情となり、これまでの快走が嘘のようにゆっくりと走る。

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 無人駅の石仏を過ぎ、九屯駅でムグンファ1628と交換する。

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 次の梅谷も無人駅、列車はほぼ5分おきに小駅に停車する。駅のホームは高さが低く、舗装も省略されているところが多い。駅舎もこじんまり、そして山深い車窓風景、これは各駅停車の旅だからこそ味わえる楽しさである。ソウルからたったの1時間半程で、こんな列車の旅が味わえるとは予想外である。ただ、この辺りでも路線改良工事が行われている区間があり、数年後には大きく姿を変えることになるのかもしれない。

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 カフェカーに足を運んでみる。カフェカーもセマウルのDHCと同様の設備である。インターネットコーナーで、中央線の情報を調べる。日本語の入力は出来ないが、閲覧は可能であり、ちょっとした検索には便利である。しかし、通信状態が安定せず、思ったように調べられなかったのは残念であった。
 楊東は停車する列車本数が多く、町も比較的開けていた。その後も判岱、艮峴、桐華とこまめに停車して行く。駅に停車するたびに少しずつ降車客がいて、車内は空いてきた。駅のたびに車内モニターと自動放送で停車駅案内が流れる。韓国語だけでなく、英語での案内もあるのは、外国からの旅行客には有難いところである。一般室も見に行くと、半分以上の座席が埋まっており、なかなかの乗車率である。比較的新しい客車のようで、客室のデザインはシンプルだが清潔感がある。新幹線サイズの車体に座席が2+2列で配置されてため広々としている。シートピッチは特室程ではないが、十分な快適さがある。

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 住宅が増えてくると、まもなく原州に到着する。清涼里駅から104.0kmを約1時間45分で走り抜けたことになる。原州は駅も規模が大きく、乗客も入れ替わりも多い。マンションなども立ち並び、なかなか大きな街である。

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 原州からは雉岳山国立公園の西側を、南東方面へ向けて走りながら山越えをする。列車は農村風景を横目に、徐々に高度を上げていく。

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 左にカーブしながら長いトンネルを通り抜けると、車窓の右下方に先程通ってきた線路が現れる。そう、ここはループ線区間なのである。

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 旅客列車は原州から神林までの27.5kmはノンストップで走るが、この区間には旅客営業を行っていない駅が2駅、信号所が3か所あり、時々ムグンファや貨物列車と交換する。山越えを終えると、神林には9時25分に到着する。

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 神林を発車すると、先程のような上り勾配が続くわけではないが、車窓には山々が連なり、左へ右へとカーブが続く。

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 右から忠北線が合流すると、鳳陽に到着する。

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 鳳陽を短い停車時間で発車すると、比較的平坦な区間を列車は力強く走って行く。拠点駅、堤川へのラストスパートである。車窓に堤川の市街地が広がってくると減速、列車は堤川駅に到着する、定刻より7分遅れの9時49分の到着である。清涼里から150.7km、鉄道旅行の様々な楽しさが凝縮された、約2時間40分の旅であった。

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 ここでムグンファ1831の先頭から8253号機関車の連結が解かれ、単独で離れていく。どうやら機関車を交換するようだ。

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 ムグンファ1831は太白線・嶺東線経由の江陵行である。全区間電化されており、8200形がそのまま直通できるはずだ、と思っていたら、代わりに近づいてきたのは同じ8200形の8282号機である。8200形同士を交換するのは、運用の都合であろうか、それとも8253号機に不具合でもあったのであろうか。ムグンファ1831はSiemns特有のドレミのインバーター音を響かせ発車していった。

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 堤川駅はKorailの忠北支社がおかれ、中央線・太白線・忠北線の列車が発着する拠点駅である。ホームは2面6線だが、広大な構内には様々な機関車や客車、貨車が並んでいる。中でも目立つのが、8000形電気機関車である。8000形は1972年に登場した。フランス国鉄のBB7200形電気機関車をベースとしており、Alstomと大宇重工業により製作された。8000形は最高85km/hに留まるが、ギア比が宅設定されており、山岳区間に適した設計となっている。以前は旅客列車にも使用されていたが、その任は8200形に譲り、現在は貨物列車用として活躍している。ゲンコツ・スタイルはまさにフランス・デザイン、ドイツとフランス発の電気機関車が活躍する姿を同時に見られるのは韓国ならではの楽しみである。

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 10時過ぎにムグンファ1643が入線してきた。ムグンファ1643はディーゼル機関車牽引である。清涼里をムグンファ1631より40分遅く発車するが、停車駅は楊東・原州のみで、堤川に着く頃にはかなり追い上げているのである。




●Mugunghwa1634 (Jecheon → Daejeon: 150.3km)

 ムグンファ1643が慌ただしく発車して行くと、まもなく忠北線大田行のムグンファ1706が客車を先頭に推進運転で入線してきた。機関車は8200形8261号機、客車は4両、全て一般席車であるが、2号車は半室がミニミニカフェになっている。

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 ホームの売店でビールを購入して、車内に乗り込む。昨夜、遅くまで深酒をしたものの、やはり列車の旅にはアルコールは欠かせないのである。
 発車直前になると乗客が集まって来て、7割方の座席が埋まった。10時20分に堤川駅を発車、中央線を清涼里方面へと走る。鳳陽駅を通過すると左へ大きく曲がり、中央線と離れ、南西へと針路を向ける。
 客車は、中央線のムグンファに比べればやや古いようだが、座席は十分な広さがあり、快適、日本であれば特急車両として使っても、全く違和感のないレベルである。ミニミニカフェは自動販売機が1台置かれており、清涼飲料水や菓子類を販売している。窓に沿って、ミニテーブルが設置され、気分転換できるフリースペースである。このような短編成の列車にも、このようなスペースを設けるのは嬉しい。日本では観光列車でもない限りは、まず考えられないところだ。

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 忠北線の旅客列車は堤川 – 大田間のムグンファ8往復、堤川 – 天安 – ソウル間のヌリロ1往復のみで、概ね2時間間隔で運転されている。列車本数が少ないのでローカル線を想像していたが、鳳陽 – 鳥致院間115.0kmのうち、五松 -鳥致院間4.4kmを除き複線化されており、全線電化されている。対向列車は貨物列車が目立ち、貨物線としての存在意義が大きいことが伝わってくる。
 ここでデジタルカメラのバッテリー残量が少ないことに気が付く。慌ただしく日本を出発したため、交換用バッテリーを用意していないのに、調子に乗って写真や動画を沢山撮ったからであろう。仕方がないので、写真は控えて、車窓風景を楽しむことにする。
 韓国のビールは、湿気の多い気候に合わせたのか、軽い味わいで飲みやすい。このように日中飲むのに向いている。とはいえ、元々睡眠不足だったところへビールが入り、いつのまにか眠ってしまった。
 ざわついた空気に目が覚めると、忠州である。忠州は忠清北道第二の都市であり、街もかなり発展している。水安堡温泉への近い。忠北線の中心駅の一つであり、かなりの乗客が下車したが、乗車も多く、車内はむしろ乗客が増えたようである。忠州は南漢江の上流域にあり、この周辺で列車は南漢江やその支流を超える。
 忠州までは山がちで、田園風景が続いてのどかであったが、忠州以降は近郊都市といった趣きに変わる。列車は周徳、曾坪、陰城と5~10分おきにこまめに停車し、、少しづつ乗客も増えてくる。客車の車端部に案内用ディスプレイが設けられており、韓国語と英語で停車駅案内が行われている。
 駅を発車するたびに感じるのは、客車列車とは思えない鋭い加速である。あっという間にトップスピードに到達する。これなら電車に遜色はない。忠北線は線形も良く、130km/h程度は出ているようだ。8200形の高性能ぶりを存分に堪能できる忠北線の旅もなかなか楽しい。
 清州空港駅は文字通り、空港に近い駅であるが、無人駅で、乗降客も少なかった。ターミナルビルが近く、空港からは済州島行の定期便が運行されているが、鉄道利用には結びついていないようだ。
 梧根場を過ぎ、高層住宅やビルが増えてくると、忠清北道の同庁所在地である、清州に到着する。ここでも、かなりの乗降があり、座席は9割方埋まった状態で、2分遅れの11時40分に発車する。

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 KTXの高速新線をくぐったところが五松駅である。ここは現在は貨物駅であるが、KTXの新駅がまもなく開業予定で、忠北線の旅客列車と接続することになっている。五松駅を通過したところで、右側に見慣れない車両が現れる。白い車体に赤い帯、現在韓国で試験運転が行われている振子電車TTXである。まさか見られるとは思っていなかっただけに幸運である。しかし、このTTXが登場すると、セマウルやムグンファはどうなるのか、と考えると、少し複雑な心境にさせられる。

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 列車が減速すると、鳥致院のデルタ線である。忠北線の旅も間もなく終わろうとしている。まず、京釜線ソウル方面へ合流する路線が右へと分かれていく。続いて、京釜線が近づいてくる。ちょうどソウル方面へのムグンファが走り去るのが見える。

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 こちらは左へとカーブし、京釜線と合流したところで鳥致院駅に到着する。
鳥致院からは京釜線に乗り入れ、大田へラストスパートをかける。途中、新灘津に止まり、大田までは27分、12時25分、定刻より2分遅れで終点大田に到着する。

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9月4日 Cheonan → Suwon → Seoul  [韓国鉄道旅行 2010]

●Saemaeul1056 (Cheonan → Suwon: 55.1km)

 ヌリロに乗り遅れてしまった。しかし、ホームの発着案内を見ると、16時25分にソウル行のセマウルがある。時刻表を確認すると、セマウル1056は水原までには停車駅の多いヌリロを追い越すようだ。16時20分を過ぎており、もう切符を買いに行く暇はないが、とにかく乗ってしまうこととしよう。

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 セマウル1056 は2~3分の遅れで到着した。この列車は釜山の第二のターミナルである釜田発、古都慶州を経由してソウルへ向かう列車である。

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 車内はかなり混んでおり、3人で座れる空席を見つけるのは難しそうだ。水原までは30分少々、カフェカーで時間をつぶすことにする。16時28分に天安を出発した列車は、遅れを回復するべく、疾走する。この区間は最高140km/n、かなりのスピード感である。天安からはソウルの首都圏電鉄1号線が並行する複々線区間、電鉄線には通勤電車が行き交う。しかし、ソウルまでは147km、通勤電車で行くには辛い距離である。
 カフェカーはなかなか利用者が多く、確実に定着していることが分かる。アーケードゲームやカラオケは必要か、という点は置いておくとして、このような車両を連結するアイデアは非常に良いと思う。
 ところで我々はこの区間はヌリロの切符しかもっていない。しかし、ヌリロはムグンファと同じ安い運賃体系であり、セマウルには本来は乗れない。車掌が回ってきたら、セマウルが遅れたのが悪いと言いましょうなどと息巻いていたが、肝心のなかなか検札に回ってこない。
 そうこうするうちに、セマウルは平澤に停車。遅れは変わらないが、この調子なら水原までにはヌリロに追いつけそうだ。西井里で待避中のヌリロを抜く。水原まであと10分、そこへ車掌がカフェカーに検札に回ってきた。赤い制服を来た、美人の女性車掌に片言の英語で事情を説明すると、車掌は困り顔、英語で申し訳なさそうに水原までの切符は買ってもらわなければならない、と仰る。ジェントルマンである我々、美人の困り顔には弱い。先程の勢いはどこへやら、愛想良く、もちろん買いますよ、と返答。発券するので少し待つように言われ、車掌はPDAをいじり始めたが、しばらくして近づいてきて、”You are lucky.”と仰る。要するにPDAの調子が悪くて、すぐに発券できないから、今回は目をつぶってくれるようだ。ただし、水原で降りるように念を押された。セマウルが遅れる時点でラッキーではない、と心の中では思いつつ、笑顔でお礼を言う。
 列車はまもなく減速、水原には17時03分に到着した。

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●Nooriro1736 (Suwon → Yeongdeungpo: 32.4km)

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 慌ただしく発車していくセマウルを見送ると、先程追い越したヌリロがすぐに入線してくる。

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 水原からセマウルに乗車する人はほとんどいなかったが、ヌリロに乗りこむ人は多い。車内は立客もかなりいて、混雑しているが、我々は座席を予約しており、無事に指定された席に座ることが出来た。

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 ヌリロは2009年6月1日にデビューしたばかりの新しい列車、現在はソウル-新昌間11往復、ソウル-忠州-堤川間1往復で運転されている。ヌリロに使用される200000系電車は日立製で、A-Trainの技術で基づく。正面から見ると、アレクサンダー・ノイマイスターがデザインを担当したSiemensのDesiro ClassicやBombardierのTalentに似た印象を与える。日立のA-Trainのプロジェクトにもノイマイスターは関わっているようなので、スタイリングも自ずと似たのかもしれない。車体側面をみると、「フレッシュひたち」そのものといった印象を受けるが、特徴的なのは韓国の低いプラットホームに合わせて、側扉下には開扉に合わせステップが自動的に展開されることであろう。
 車内も日立製特急電車に近い印象を与えるが、車体幅が31800mmと新幹線サイズであるため、随分と広く感じる。その大きな車体に2+2列配置で座席が並ぶのだから快適である。座席も「フレッシュひたち」の普通席に比べ、少し大きいように感じる。
 水原を17時07分に発車、定刻より3分ほど遅れているのは、セマウルに先行させて影響であろう。ヌリロは電車ならではの鋭い加速で、スピードに乗る。130km/hくらいは出ているようだが、200000系は最高150km/hの性能を持つだけに、まだまだ余裕を感じさせる。車窓には高層住宅が並ぶ、ソウル都市圏は本当に広い。列車はロッテデパートが併設された安養駅にも停車する、ここでもある程度の乗降がある。

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 安養を出発すると、5分程でソウル市内に入り、高速新線からの連絡線が合流する。次々と電車がやって来る電鉄線を横目に、ヌリロはラストスパート、17時31分にソウルの南のターミナル、永登浦に到着する。我々も多くの下車客に交じって、ここで下車する。

 本来であればヌリロの発車を見送るところであるが、我々は急いで電鉄線ホームへ移動し、すぐにやってきた列車で隣の新吉駅に移動する。新吉駅はS字カーブを通過してくるKTXやセマウル、ムグンファなどを手軽に撮影できるポイントとして知られており、私たちもしばらく撮影を楽しむこととなったのである。急いだのは、KTX-山川の発車時間が迫っていたからである。
 新吉駅のホーム端に行くと、現地のファンが撮影していた、鉄道趣味がないと言われた韓国も変わり始めているのだ。ソウル駅に近い場所だけに列車本数は多く、5分も開けずに次々と列車が通過し、眺めるだけでも楽しい。その中でも、やはりKTXの本数は突出しており、KTXが韓国の長距離鉄道輸送の中心的な存在であることを実感する。

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KTX

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KTX

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7400形がセマウル用DHCを牽く。回送だろうか。

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KTX-山川

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7400形牽引のムグンファ。韓国のDLは迫力満点である。

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8200形牽引のムグンファ

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KTX

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KTX

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セマウル

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8200形牽引のムグンファ

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貨物列車も通過する。

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KTX

 新吉駅は電鉄線を走る車両の撮影には向かないが、それでも韓国の通勤電車を眺めるのは楽しいものである。電鉄線には抵抗制御の1000系も残るが、主力車両は5000系である。5000系は製造時期によって前面のデザインが異なり、第二世代は「トングリ」、第三世代は「新トングリ」と呼ばれている。トングリ、新トングリは丸っこくて愛嬌があり、シンプル一辺倒の日本の通勤電車に比べて好感が持てる。また、ソウルメトロの車両も電鉄線に乗り入れてくる。

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Korail 1000系

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Korail 5000系

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Korail 5000系「トングリ」

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Korail 5000系「新トングリ」

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Korail 5000系「新トングリ」

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ソウルメトロ 新1000系

 40分程経ったところで、日も落ちてきたので撮影を終える。再び1号線に乗る。1号線はこのまま地下鉄にも乗り入れる。車体幅は新幹線とほぼ同じ、日本の地下鉄に比べ広々としている。漢江を渡って、龍山駅で下車する。

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 龍山駅は木浦・光州など、韓国西部方面へ向かう湖南線のKTXやセマウル・ムグンファが発着するターミナル駅であり、構内もソウル駅と同様に広い。夕暮れの駅前もなかなか賑わっている。

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 ここで下車したのは、駅のターミナルビルに入居している大きな書店に寄るためである。実は出発前に韓国で初の鉄道雑誌、"Railers"が創刊されたことを知り、探しに来たのである。しかし、残念ながらこの書店には雑誌は扱っていなかった。
 諦めて再び1号線に乗車する。ソウルタワーが右に姿をのぞかせる。龍山から2駅目がソウル駅である。ソウル駅まではKorailの首都圏電鉄1号線であるが、ソウルからはソウルメトロ1号線となる。電気方式も首都圏電鉄区間は交流、ソウルメトロ区間は直流で、ソウル駅手前にデッドセクションがあり、一瞬照明が消える。

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 我々はソウル駅の一駅先、市庁駅で下車する。少し疲れたので、ホテルに戻り、30分ほど休憩した後、夕食に出ることとする。ソウル一の繁華街、明洞までは歩いて10分ほどである。向かったのはトッサムシデ、豚三枚肉の焼肉サンギョプサルの専門店である。

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 豚肉から出る油は傾けた鉄板から流れ出るようになっており、その油でキムチも焼く。油が落ちる分、豚肉は意外とさっぱりしている。その豚肉をサンチュやエゴマの葉にくるんで食べる。韓国は豚肉が美味い。韓国焼酎チャミスルもすすみ、すっかり満足する。

 食後は明洞を散歩する。週末だけあって賑わっている。

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 食事の締めは全州中央会館、おなじみのピビンパである。ここでもビールを飲む。

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 お腹も満たされ、良い具合に酔いも回る。明洞にはおでんから、トッポギから甘いものまで、様々な屋台が並んでおり、眺めて歩くのも楽しい。トッポギと海苔巻を購入し、さらにコンビニエンスストアでビールを調達する。ホテルに戻ってシャワーを浴びたところで、Sさんと私の部屋にT師匠が合流、ビールと屋台で買ったつまみで3次会を楽しみ、一日を終えたのである。

9月4日 Busan → Dongdaegu → Cheonan [韓国鉄道旅行 2010]

 KTXサンチョンの撮影を終え、エスカレーターを上がってコンコースへ。驚いたのは、ドイツの駅と同様に、レイアウトが設置されていたことである。鉄道趣味の文化がない、という韓国で出くわすとは思いもよらなかった。KTXの模型はLimaか、どこかの製品を塗り替えて、それっぽくしたのであろうか。動いていなかったのは残念であるが、10年もしたら韓国車両の鉄道模型が販売されるようになるかもしれない。

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 駅の外に出る。ソウルは東京に比べると気温は低く感じたが、とにかく湿気が高くて、蒸し暑かった。釜山は湿気は思った程でもなかったが、ともかく暑い。陽射しがまともに当たって辛いくらいであった。

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 釜山滞在時間はあまりない、当初は駅周辺で適当に過ごそうと考えていたが、T師匠の提案に従って、慌ただしくはなるが繁華街へ行って、早めの昼食を摂ることにした。駅前から地下に降り、地下鉄1号線に乗って二駅目、南浦洞で下車する。

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 駅から歩いて5分ほど、済州島料理の店に入る、店名はずばり済州家である。

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 済州島は私のルーツの一つ、何度か実際に行ったことがあり、思い入れがある。済州島は美味しいものがいろいろとあるが、この店の名物、アワビ粥はやはり外せない。肝も煮込んだ緑色のお粥は、いつ食べても美味しい。

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 そして、アマダイの干物、これがまた美味しい。個人的には、干物の最高峰だと思う。

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 そしてそして、焼きアワビである。味はバターソテーのような感じである。肝が絶品である。東京の某hさんが動画で料理を紹介することを推奨されていたと記憶しているので、この焼きアワビは動画も撮っておいた。

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 ビールもかなり飲んで、すっかり満足。そうこうしているうちに、駅に戻らなければいけない時間になり、地下鉄に乗って、釜山駅に舞い戻る。


●KTX138 (Busan → Dongdaegu: 115.4km)

 釜山駅の駅舎はガラス張りの近代的で貫禄がある。

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 混雑するコンコースを抜け、ホームに降りる。

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 これから乗車する12時ちょうど発のKTX138は既に入線していた。釜山滞在時間はわずか1時間半、少し惜しい気もするが、今回は鉄道優先、ソウルへの復路は3本の列車を乗り比べする予定である。
 この列車はオリジナルのKTXによる運転である。乗車するのは6号車一般室である。KTXの一般室はともなく評判が悪い、座席は狭いし、集団見合い式で座席は回転不能。とある鉄道雑誌では、地獄の旅路とまで表現していた。鉄道ファンとしては、せっかくKTXに乗るなら、やはり一般室に乗らなければ、ということになるわけである。乗車口のステップにはAlstomの文字、隣国で出会うフランスである。

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 客室のデザインは今となっては古さを感じさせなくもない。私は通路側の11C席に座る。この座席は進行方向を向いている、せっかく一般室に乗るなら、進行方向と逆向きの席でも良かったのだが。隣は年配の女性で、果物を食べている。乗車率は50%程度といったところか。

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 12時定刻にKTX138は釜山駅を発車、釜山市内をゆっくりと走行する。座席は確かに狭い、リクライニングも殆ど出来ない。シート自体も安っぽいし、何となく圧迫感があり、快適とは到底言えないが、地獄と表現するほどひどいとは私は思わない。JR東日本の一部の新幹線車両の自由席や航空機のエコノミーシートと比べれば、大きな違いはない。とはいえ、2012年以降に改装が予定されているらしいので、それに期待したいところである。
 寝不足が続いていたところで、今日も早かったのと、昼のビールも効いてきて眠くなる。東大邱までは先程と同じ在来線を辿るだけなので、しばらく寝ることにする。T師匠に起こされると、ちょうど密陽に着くところだった。隣の女性はここで下車、釜山からわずか35分の距離でも、需要があるようで、KTXが韓国の足として確実に定着している様子がうかがえる。
 オリジナルのKTXの残念な点は売店などの気分転換できるスペースがないことであるが、その代わり車内販売は行われている。KTXは韓国の他の鉄道車両に比べ、ヨーロッパ企画で車幅が狭く、当然通路もせまいため、車販用ワゴンもこぶりであるが、それでもビールや清涼飲料水から弁当、おつまみ、菓子など、一通りの品揃えはある。
 快晴の天気の中、ぼんやりと車窓を見るのも楽しい。しかし、11月に新線が開通すると、KTXは殆ど新線経由になるので、この区間の列車はかなり削減されることになるであろう。新しい高速新線は在来線に比べ東側へ迂回し、仏国寺などで有名な古都慶州(駅は慶州駅と別に設けられる新慶州)、蔚山を経由する。距離は4km程長くなるが、高速走行により所要時間は20分程短縮され、ソウル・釜山間は2時間20分程度になる見込みである。
 その高速新線が近づいてくると、列車は東大邱に到着する、定刻の13時06分である。東大邱の広い構内には何編成ものKTXが停車している。乗車してきたKTX138の発車を見送った後、隣のホームに停車中のKTX編成を眺める。

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 先頭車の直ぐ後ろの車両に連結された客車には、オレンジのステッカーが貼られ、「KTXシネマ」と記されている。KTXでは映画の上映も行っているのである。以前新幹線でも同様のサービスがあったと記憶しているが、利用率はどうなのであろうか。

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 まだ時間があったので、ホームからコンコースに上がる。東大邱駅はソウル駅を小ぶりにしたようなデザイン、コンビニエンスストアやファーストフード店の他、様々な売店も多く、なかなか賑わっている。そうこうしているうちに、発車時間が近づき、ホームに戻る。韓国は改札口がない、このあたりはヨーロッパに近いと言えるかもしれない。

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●セマウル1004 (Dongdaegu → Cheonan: 229.7km)

 東大邱からはセマウルに乗る。セマウルはKTX登場までの韓国の花形列車、愛称の由来は朴正煕大統領が提唱化した地域近代化運動で政治色が強いものの、現在は完全に列車名として定着しているようだ。セマウルは以前は客車列車も多かったが、現在はほとんどがDHCと呼ばれる高性能気動車によって運転される。DHCは動力集中式で、両端の先頭車の半分が機関室、半分が客室となっている。T師匠は韓国版VT11.5と表現していたが、確かにそんなイメージである。セマウル1004はディーゼルエンジンを響かせて入線してきた。

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 我々は2号車の特室に乗車する、車内は4割程度の乗車率である。車内のデザインは一時代前の特急列車のイメージである。側窓の天地方向の寸法がそれほど大きくないせいか、ややうす暗く感じる。網棚も安っぽいが、間接照明とエンジ色のシックな座席は好感が持てる。その座席は驚くほど広く、座り心地も素晴らしい。リクライニングも深く、その上膝下の部分もせり上がるので、非常にリラックスした姿勢を取ることが出来る。こんな座席に慣れた乗客から見たら、KTXは許せないだろう、KTXの不評はこんなところにも原因があるのかもしれない。

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 東大邱をほぼ定刻に発車する。2号車は動力が近いためか、ディーゼルエンジンの音も響いてい来るが、それはそれで鉄道ファンには嬉しい。しかし、列車はすぐに減速し、大邱に停車、ここでもかなりの乗車がある。
 大邱を発車すると、KTXは高速新線に入るが、セマウルは在来線経由、それでもエンジン音も高らかに最高140km/hで疾走する。ここで、カフェカーを見に行くこととする。セマウルは以前は食堂車を連結していたが、2008年に全て廃止され、代わりに登場したのがこのカフェカーである。カフェカーは車両の中央に売店があり、アルコール飲料を含む飲物、おつまみ、菓子に加え、弁当も売られている。売店を挟んだ一方には窓に沿って簡易なテーブルと椅子が設置され、飲食ができるスペースになっている。
 驚くのはもう一方、何とインターネットが使えるPC、アーケードゲーム、マッサージ椅子、果てはカラオケボックスまで設置されているのである。こんな設備、必要なのか、本当に使う人がいるのか、大いに疑問を感じる・・・・・と思ったら、いずれの設備も利用者がいるのである。特にインターネットは利用率が高く、私も試しに使ってみた。15分で500ウォン、通信速度はそれほど速くはないが、ストレスを感じるほどではない。日本語設定には出来ないものの閲覧はでき、メールチェックには十分であった。カラオケボックスは子供連れの乗客が利用していた。確かに退屈しのぎには良いかもしれない、防音も十分になされており、日本の普通のカラオケボックスよりも静かな程であった。

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 座席に戻ると、列車はまもなく倭館に到着する。車端部に設置されたモニタには韓国語と英語で停車駅の案内が放映され、BGMと共に韓国語と英語の自動音声放送が流れて、最後に韓国語で肉声放送による案内がある。
 倭館というと、通常は中世から近世にかけての朝鮮と日本の交易のために設けられた日本人居住地を指すが、この倭館の名前の由来は壬辰・丁酉倭乱 (文永・慶長の役)の際に日本側の兵糧庫があったことに由来するという。

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 倭館を14時に発車する。在来線は高速新線線の南側を走っていたが、倭館の先で高速新線と交差し、北側へ大きく迂回する。金烏山道立公園の北側、亀尾にも停車する。停車するたびに少しずつ乗客が増えていく。
 T師匠と再びカフェカーへ行く。ワインのミニボトルが赤だけで3種類、なかなか品添えが豊富である。それらを1本ずつ購入し、座席へ戻る。飲み鉄は鉄道旅行の大きな楽しみ、用意周到なT師匠が日本から持参したおつまみで乾杯する。1種類だけは甘過ぎて、飲むのも辛い程であったが、他はなかなか美味しかった。

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 列車は再び高速新線と交差し、まもなく金泉に着く。ここは東大邱からの区間では最も大きな街であり、乗車も多い。

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 セマウルはここまで10~20分間隔で駅に停車している。KTX開業に伴い、セマウルは停車駅が増え、全体の所要時間はかなり延びたが、KTXがカバーしない駅での需要の発掘に成功しているようだ。金泉発は14時30分過ぎ、定刻より数分遅れているが、天安で11分の待ち時間で乗り換える予定のヌリロには十分間に合いそうだ。金泉からは再び北側へ迂回する、在来線がこうだと高速新線による時間短縮効果は大きなものとなるであろう。高速新線に再開したところで氷同に停車する。特室も8割方の座席が埋まった。
 韓国の風景は水が多い、川や池が目立つ。日本と似ていて、どこか異なる韓国の風景を横に列車は大田に向けて疾走する。ここで韓国語で車内放送が入る、聞き取れたのはKTX?

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 そうこうしているうちに列車は本来停車しないはずの沃州に止まる。間もなく横をKTXが通過して行く。どうやら、列車の遅延で、KTXを優先して通すための運転停車だったらしい。この停車で、遅れが広がったようで、天安での乗り換えが間に合うか、心配になってくる。KTXの通過後、セマウルもすぐに発車、追いかけるようにディーゼル音を響かせて太田へラストスパートする。速い、セマウルの逞しい走りっぷりである。
 大田も慌ただしく発車、次の天安までは40分余りである。我々としてはヌリロに間に合うように頑張って欲しい、というだけである。車内放送でヌリロ云々と言っているが、遅れは10分にならない程度であるし、ワインを飲んで酔いが回っているので、気が大きくなり、まあ何とかなるだろう、と思い直した。特室は大半の席が埋まり、セマウルはセマウルで、多くの乗客に支持されていることが伝わってきた。この快適な椅子座るとそれも納得。遠くから響いてくるディーゼルエンジンの音も旅気分を盛り上げる。
 セマウル1004の天安到着は16時09分である。16時を過ぎ、それそろ天安に着くはず、こんなに飛ばしているし、数分は遅れを回復しているだろうと思う。しかし、なかなか列車はなかなか減速しない。天安駅に着くはずの16時09分を過ぎても、列車は気持ちが良いくらい飛ばすので、さすがに心配になってくる。快適なセマウルの旅を終え、天安駅に到着した時には16時17分になっていた。

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 ここはソウルの広域電鉄も乗り入れており、5000系電車が電鉄線ホームに停車はしていた。我々が乗る予定のヌリロは16時20分発である。ヌリロは列車線を走る、このセマウルの発車後に、同じホームに入線してくるだろう・・・・・とホームで待つ。しかし、セマウル1004の発車後、次列車の表示はセマウルになった。あれ、ヌリロは?コンコースに上がって、発車案内を確認しようと思ったその時、電鉄線ホームからソウル方面へ向け発車して行くヌリロの姿が目に入った。ヌリロは新昌発、長項線からこの天安駅で京釜線に合流するが、天安駅は電鉄線ホームに発着するのだった。
 この後も予定があるというのに、ヌリロに完全に乗りそびれた。どうしようか。

9月4日 Seoul → Busan [韓国鉄道旅行 2010]

 5時30分に起床、この時間のソウルはまだ暗い。身支度を整え、6時20分にSさんとともにロッテホテルを出発、すぐ隣のホテル・プレジデントのロビーでT師匠と合流する。朝のソウルは暑くはないが、蒸している。ホテルの真横の市庁駅から地下鉄1号線に乗り、隣のソウル駅で下車する。
 T師匠はハングルも韓国のことも何も分からないから、今回は「金魚のフンで付いていきます」と仰るが、ホテル周辺も地下鉄も鉄道も下調べは万全、前日ソウル到着後下見もしっかり済ませてあるのはさすが。結局、金魚のフンは私ということになり、T師匠に連れられるまま歩く。地下鉄1号線のソウル駅から地上へ上がると、Korailのソウル駅に出る。

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 ソウル駅は1994年のKTX開業に合わせて新駅舎が建てられた。新しい駅舎はガラス張りのモダンなデザインで、新時代の韓国鉄道にふさわしい威容を誇り、Berlin Hbfが連想させる。まだ6時半過ぎだが、ソウル駅ともなると、この時間でも利用客は多く、賑やかである。

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 今日は様々な列車を乗り継ぎながら、釜山を往復する予定である。チケットはKorailの英語版を通じて既に予約してある。プリントアウトした予約票を提出すると、係員は慣れた手付きで直ぐにチケットを発券してくれた。私達の乗る列車は7時30分発、まだ時間がある。

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 広いソウル駅の構内はKTXの姿が目立つが、隅の方でムグンファが発車を待っているので、早速撮影に行く。牽引機は8200形、Siemensの152形をベースに、現代ロッテムが生産した車両である。スタイルはまさに152形そのもの、鉄道について言えば、まさに日本に一番近いドイツと言えよう。ドイツのそれとの違いはバッファーがなく、連結器が自動連結器となっている点である。塗装はKorailのCIに従い、白のベースに赤と青があしらわれている。

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 駅構内にはハンバーガーショップ、韓国料理店、カフェに加え、うどん店まであり、どこも朝食を摂る人で賑わっている。駅弁といえるのかどうか分からないが、ランチボックスを販売する店も開店準備をしている。さらに各ホームにもコンビニが設けられ、雑誌や飲物、菓子類に加え、弁当も売っている。

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 朝はKTXの出発ラッシュ、どの列車もかなり混雑しているようだ。我々が乗車するのは7時30分発、KTX109である。

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● KTX109 (Seoul → Busan: 408.5km)

 ホームのコンビニで朝食用に弁当を購入しているうちに、7時15分過ぎにKTXが入線してきた。KTX109は従来のKTXをベースに、国産率が高められた新型、KTXサンチョン (KTX-山川)により運転される。サンチョン (山川)はヤマメを意味しており、言葉通り、KTXサンチョンはヤマメをイメージしたデザインである。開発時はKTX-IIまたはKTX-2と呼ばれていたが、営業運転開始に先立って愛称が公募され、サンチョンに落ち着いたとのことである。KTXサンチョンは2010年3月2日から営業運転を開始したばかりの最新鋭車両であり、現在はKTX京釜線・ソウル - 釜山間2往復、KTX湖南線・龍山 – 木浦 2往復、龍山 – 光州 2往復に運用されている。

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 KTXサンチョンの最大の特徴は、短編成化が図られたことである。第1世代のKTXは両端の先頭動力車の間に18両の客車が連結されていたが、KTXサンチョンでは8両となった。これは湖南線など比較的需要の少ない区間でも効率的に運行できるようにする目的がある。今のところ単編成による運行のみとなっているが、将来的には2編成併結での運用も予定されており、より柔軟な運用が組まれることになるであろう。第1世代のKTXでは不評だった車内設備にも大幅に改良され、今後Korailのフラッグシップとしての活躍が期待される。
 KTXサンチョンは最初に6編成が製作され、その後も増備が続けられているが、本日のKTX109は02編成が運用されている。正面から見ると、TGVをベースとしながらも、ライト周りなどはICE 3を思わせる。客車も連続窓や側扉のデザインなど、ICEを思わせるデザインで、つい嬉しくなる。塗装は白をベースに青のアクセントが入った洗練されたものに変更されている。

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 KTXサンチョンは1・2・4・5~8号車が一般室、3号車が特室であり、4号車には売店とボックス席も設けられている。KTX109は先頭が8号車で、我々は3号車の特室に乗車する。特室は一般席に比べ40%高い特別運賃が設定されており、ソウル – 釜山間の運賃は休日で71,700ウォン、日本円で5,000円強といったところである。釜山まで408.5kmという距離を考えると、日本に比べてかなり安い運賃体系と言うことができよう。
 ホームの高さが低いため、車両にはステップが設けられているが、大きな荷物を持っている場合はなかなか大変であろう。編成が短いだけに、見たところ車内は満席である。特室は1+2列で座席が配置されており、私は通路側の5B席に座る。

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 KTX109は定刻にソウル駅を離れる。ノートPCも置けそうな大きなテーブルを出して、まずは先程購入した弁当を食べることにする。プルコギに、卵焼き・キムチ・煮物など数点のおかずが付き、電子レンジで温めたご飯・味噌汁のセットでなかなか充実しているし、味も良い。

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 列車は在来線を60~100km/h程で走る。隣の電鉄線には次々と通勤電車が行き交い、その列車本数の多さには驚く。湖南線方面の拠点駅である龍山を通過し、まもなく漢江を渡る。

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 ソウルの南の拠点、永登浦も通過する。この区間は最高135km/hとされており、助走区間が続く。仁川へ向かう京仁線が分岐する九老を経て、ソウル駅から17.7km地点、衿川区庁駅に近い始興連絡線分岐で在来線と分かれて地下に潜りトンネルに突入する。列車は一気に加速する、その加速感がなかなか心地よい。光明を通過し、さらにトンネルを抜ける頃には200km/hを超えるスピードで疾走していた。車窓風景も、随分とのどかになり、快晴の天気と相まって気持ちが良い。

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 新線区間は最高300km/hだが、揺れは少なく、動力集中式なだけに静かで、極めて快適である。上下方向への軽い揺れはあるが、これはフランス式の軌道の造り方によるもの、という解説をT師匠にして頂く。T師匠の解説は、鉄道の旅を一層興味深いものにしてくれる。特室の乗客にはミネラルウォーターのサービスがある。ペットボトルにはKTXのロゴが入っており、飲むのがもったいなく感じられる。車内の数か所にはテレビモニターが設置され、列車情報の案内に加え、ニュースなども放映していた。韓国では、通勤電車からKTXまで、この種のサービスが普及している。

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 まもなく列車は減速、高速新線上に設けられた天安牙山に到着する。天安牙山は長項線の牙山駅に隣接している。

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 ソウルからそれほど離れているわけではないためか、乗降は少なく、すぐに発車、再び300km/h走行に戻る。

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 デッキは濃紺をベースとしていて、少し落ち着かない気もする。特室では新聞の無料サービスが行われており、新聞ラックが置かれている。また、荷物置き場や補助椅子も設けられているのは、従来のKTXを踏襲している。車内設備の案内は分かりやすいのも好感が持てるところである。

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 減速し甲川に沿って走る頃には大田の都市圏に入っている。大田操車場で光州・木浦方面の湖南線が右へ分岐していく。

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 こちらは在来線と合流し、まもなく、ゆっくりと大田駅に到着する。構内にはDL牽引の貨物列車が停車中である。大田までは1時間弱、在来線経由の場合はセマウルでも1時間50分かかることを考えると、KTXの速達性は実に効果的である。

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 大田は首都機能の一部が移転されており、Korailの本社も置かれた要衝、それだけに下車客も多いが、乗車もあり、車内は思った程は空かない。定刻の8時27分に大田駅を出発すると、15km程は在来線を走る。スピードは120km/hくらいだろうか、曲線が多くなかなかスピードは上がらない。大田駅から約15km走った沃川駅付近で高速新線に入り、一気に加速していく。この列車は大田から東大邱駅まで133.3kmはノンストップであるが、一部のKTXは在来線を経由し、金泉・亀尾にも停車する。

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 高速新線は直線的に大邱へ向かうが、在来線は蛇行しながら周辺都市を経由するため、何度か交差する。8200形牽引のムグンファが走っているのが見えたが、あっというまに抜いていく。山がちのところを走っているせいか、空はどんよりと曇り、霧がかってきた。

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 しばらくすると再び快晴に戻る、300km/hで移動しているとはいえ、韓国の天候は変化に富む。減速し、大邱北連結線分岐から東大邱までの18kmは在来線を走る。大邱駅を通過すると、間もなく東大邱に到着する。

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 韓国第4の都市、大邱のターミナル駅ということもあり、東大邱の構内は広く、次々と列車が発着している。ソウルからのKTXの一部もここで折り返す。降車客も多く、車内も少し空いた。定刻では9時16分の発車であるが、KTX109はしばらく停車した後、9時20分頃に発車した。
 東大邱から釜山までは在来線を走るが、今年の11月には慶州経由の高速新線が開業し、大幅な時間短縮が予定されている。発車して間もなく、その新線が左側に現れる。既に試運転も行われてようで、架線が張られ、信号機も動いていたが、試運転列車は見かけなかった。

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 隣の4号車に設けられた売店に行く。従来のKTXは車内販売が行われていたものの、売店などの設備がないことが不評であった。KTXサンチョンでは車内販売を廃止され、代わりにこの売店が設けられた。売店では飲み物・おつまみ・菓子の他、弁当も販売しており、時々乗客がやってきて利用していた。また一角には立ち席ながらテーブルも置かれ、気分転換できるスペースとなっていた。

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 農村ののどかな光景の中を走るKTXもなかなか味わい深い。在来線区間だけに曲線も少なくないが、線形自体は悪くないようで、列車のスピードはなかなか速い。実際、京釜線は区間によっては150km/h運転も行っておいる。結局、次の密陽までの50km余りを30分で走破した。

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 密陽は一部のKTXのみが停車する。駅舎もこじんまりとしているが、ここでもある程度の下車があり、車内はかなり空いた。密陽を出発すると、次は終点の釜山である。
 車内は壁が木目調とされ、ブラウンのシートと相まって、落ち着いた雰囲気を演出している。床は花柄の絨毯が敷かれており、シートも韓国伝統の模様が刺繍され、韓国らしさをアピールしている。シートは十分な大きさがあり、やや堅い座り心地だが、ホールド感があって身体にフィットし、長時間座っていても疲れない。リクライニング角度も43度が確保されている。足置きとテーブルは前のシートに固定されている。イヤホンを用いれば、オーディオサービスも楽しめ、また各席には車内誌も置かれている。韓国語のみで読めないのが残念なところである。残念と言えば、日除けが2列分一体になっている点も気になる、本来であれば、各列で調整できるようにすべきであろう。

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 三浪津で晋州、順天方面へ向かう慶全線が右に分岐していく。晋州は私のルーツの土地、一度は行きたいものである。列車は洛東江に沿って南下していく。美しい車窓風景を満喫しながらくつろぐ。

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 亀浦を通過すると、いよいよ釜山の市街地に入っていく。亀浦は釜山金海空港にも比較的近く、地下鉄も接続する、釜山の北の拠点であり、一部のKTXも停車する。列車は洛東江から離れ、一旦東に向かう。南に進路を変えたところで、釜山駅と並ぶターミナルである釜田駅からの連絡線、更に開業を間近に控える高速新線と合流する。左手に釜山港が広がり、無数のコンテナを見ながら、定刻より4分遅れの10時30分に釜山駅に到着する。

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 ゆっくりと支度し、車内の様子を撮影してから降車する。

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一般席

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特室

 乗客がいなくなったホームを先頭部まで歩き、もう一度KTXサンチョンを撮影する。しばらくして、パンタグラフが下され、照明も消えた。しばらく、ここで小休止ということであろう。

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 KTXサンチョンはTGVの良さを活かしつつ、性能・車内設備とも非常に高いレベルに昇華させた素晴らしい車両であった。今後のKTXサンチョンの活躍を確信しながら、3時間の充実した旅を終えたのであった。

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9月3日 Tokyo → Seoul [韓国鉄道旅行 2010]

 ここ数年まとまった休みが取れず、海外の鉄道に乗りに行く機会に恵まれない。そのため、最近は弾丸ツアーと称して、国内の鉄道に日帰りで乗りに行く機会が多い。しかし日本の鉄道の旅も楽しいが、時には異なる国の鉄道を旅したいとも思う。幸いにも日曜の仕事を代わってもらえることになったので、週末を利用して旅に出ることにした。目的地は韓国である。
 これまで済州島を除けば、韓国をゆっくり旅することがなく、韓国の鉄道を利用したこともなかった。しかし、韓国の鉄道は標準軌、客車列車が今でも多く残るなど、大陸の鉄道らしい特徴を有する。最近は独自性が高まってきているが、フランス・ドイツ・アメリカなどの技術に基づいた多彩な車両が見られるのも魅力的である。弾丸ツアーは海を越え、韓国を目指すこととなったのである。
 鉄道に乗っているばかりの旅である。行きたい人などいないと思ったら、物好きはいるものである、最終的にSさんとT師匠が参加表明し、3人旅となった。

 9月3日、仕事を慌ただしく切り上げ、17時30分頃に職場からタクシーに乗り込む。京成上野駅までは5分ほどである。ここから先月開業したばかりの成田スカイアクセス線経由のスカイライナーに乗る。改札口でabeさんと合流する。abeさんは今回の旅に同行するわけではないが、スカイライナー試乗を兼ねて、成田空港までご一緒することになったのである。スカイライナー51号は17時45分に発車する。この列車はスカイライナーの最終列車、これ以降の列車はイブニングライナーとして運転され、京成線経由で時間がかかる。

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 新型スカイライナーの外観は好みの分かれるところであろう。前面のスタイリングや色はあまり好きになれない。近くから見ると側窓周囲のビスが目立つなど、仕上げの面でいま一歩という気もするが、ホームで多くの乗客がカメラを向けるように、注目を集める存在であることは間違いない。

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 日暮里でも乗車があったが、乗車率は50%に達しない程度だろうと比較的空いていた。夕ラッシュ時ということもあるのか、列車は徐行を繰り返し、なかなかスピードが上がら車内はモダンなデザイン、丸天井で空間を広々と感じさせてくれる。旧型に比べシートピッチが広がり、足元も広がった。シートは硬めながら、座り心地も良い。ビジネス客の多い列車だけのこと、各席には電源ポートも設置され、ノートPCを置けるよう、テーブルも十分なサイズがある。そのテーブルの上に、abeさんが用意してくれたビールとおつまみを載せ寛ぐ。列車は高砂を過ぎ、北総線に入ったところでようやくスピードに乗る。

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 印旛日本医大前を過ぎると、いよいよ160km/h運転区間、列車は一気に加速していく。左には印旛沼をのぞむ。車内の液晶モニターは前面展望を映し、高速運転をアピールしている。青2灯が点灯する進行現示の信号が興味深い。成田湯川を通過するとまもなく、右に新勝寺が見え、JRが左に並走する。列車はJRに差を見せつけるようにこちらはトップスピードを維持、トンネルに入って減速すると空港第2ターミナルに到着する。私は第1ターミナルを利用するので、次の終点成田空港駅で下車、18時33分定刻の到着であった。成田空港ままで48分、確かに早くなったことを実感した。

 まずは成田空港第1ターミナルの南ウイング出発ロビーに行く。この時間になると出発便は少なく、大半の窓口は閉鎖されており、人もさほど多くない。今回利用するアシアナ航空のブースで搭乗手続きを行う。ここも10人程度が待っているのみ、預ける荷物もなく、手続きは10分もかからず終わる。
 残った時間はabeさんと空港ターミナル内を散策して、時間をつぶす。展望デッキに上がると、デルタ空港機などが次々と離陸していた。相変わらずの1日であったが、展望デッキは風が通り、なかなか気持ちが良い。
 19時30分過ぎに、仕事を終え空港まで遊びに来たNaOさんとも合流、空港のレストランに入り、ビールを飲みながら鉄道話で盛り上がる。とはいえ時間はあまりない、20時前に私だけ席を立ち、出発口へ向かう。入国審査は予想通りガラガラで簡単に通過し、搭乗口へ行く。既に搭乗が開始されている。20時30分発のアシアナ航空OZ105便 (コードシェア: NH6975便)はB767-300による運航である。

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 指定された31A席に座ると、まもなくドアクローズ、定刻前にはプッシュバックとなった。しかし、ここからが長い。この便が離陸するB滑走路まで延々20分も地上を走る。これでは燃費にも大きく影響されることだろう。空いているのだから、A滑走路を使えば良いのに、というのは素人考えか。
 飛行機は20時50分に離陸、一旦太平洋岸に出て大きく旋回し、北西に針路を向ける。機内はほぼ満員、搭乗客は日本人と韓国人が半々、わずかに欧米人といったところだろうか。若狭湾から日本海に出る頃、機内食がサービスされる。ただでさえ、厳しい競争の中で機内サービスが削られている時代である。エコノミークラス、しかも短距離国内線となると期待するつもりもなかったが、ちゃんとホットミールで、焼肉丼にサラダにフルーツ、パンとなかなか充実していた。味も悪くなかったが、ちょっと甘すぎるか。後から知ったことだが、フライトアテンダントに頼めばコチュジャンがもらえるらしい、このあたりはささすがは韓国の航空会社である。飲物はOBビールである。韓国のビールはすっきり、さっぱりで飲みやすいが、ちょっと物足りないようにも思う。

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 食後は本を読んだり、明日の予定を確認しながらゆっくりと過ごす。夜遅い便とあって、サービスが終わると機内は減光され、私もひと眠りする。目が覚めると、もう朝鮮半島上空を西に向かいながら、仁川国際空港に向けて降下を開始していた。韓国の夜景が徐々に近づく。大きな揺れもなく、22時50分前に仁川国際空港に着陸した。広い仁川国際空港だが、さすがにこの時間は旅客便は殆どなく、ターミナルビルの多くは消灯されていた。一方、貨物ターミナルは何機かの貨物機が出発準備をしている最中。24時間眠らない大空港の姿を目の当たりにした。
 スポットに到着し、飛行機を降りる。韓国は3年ぶり、ソウルは初めてである。入国手続きはあっさり終わる。荷物も預けていないので、すぐに23時過ぎには到着ロビーへ出る。この時間になると、ソウルへの交通手段はあまりない。最も一般的なのは0時発のKAL深夜バスであるが、それまで待つのも面倒であるし、タクシーは仁川からでは高い。それに出来るだけ鉄道を使いたいという思いもあり、2007年に開業したばかりのKORAIL空港鉄道、通称A'REXでソウル市内に近い金浦空港に向かうこととした。


● A'REX (Incheon Int'l Airport → Gimpo Airport: 37.6km)

 ターミナルビルの地下に下りると、人の姿はまばらで、照明も半分落されていて、少し不安になる。案内に従って、A'REXの改札口に辿りつくが、自動改札の未で無人、隣の自動券売機も電源が切られており、チケットが買えない。ハングルで何か書かれているが、意味は分からじ困ってしまう。運良く通りかかった空港職員に尋ねると、別の改札口に案内され、ここでは自動券売機に加え、友人の窓口もあり、金浦空港までのチケットを購入する。韓国は日本以上にICカードが普及しており、ソウル市内ではT-moneyカードが鉄道・バス・タクシーの他、コンビニ・観光施設などでも使用できる。そして、1回券も紙資源節約のためICカードとなっており、購入代金には保証金500ウォンが含まれるが、改札を出たところで保証金換金機に入れると、500ウォンが戻る仕組みである。
 ホームに降りると、ホームドアが設置されており、既に金浦空港行の列車が入線してドアを開けていた。車両はA’REX開業に合わせて登場した2000系電車であるが、ホームドアが設置されているため、外観をゆっくり眺めることが出来ないのは残念である。

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 金浦空港行の普通列車は23時26分に発車する。この列車は終電の1本前、乗客は少なく、1両に数人が座っているのみである。車両は新幹線などとほぼ同様に幅が広く、ロングシートの車内では、車両の大きさが一目で分かる。
 ロングシートは硬い座り心地である。側扉上部には案内用LED表示機や現在位置表示機が設置されている他、さらに側窓上部には液晶テレビも設けられ、何かの番組やCMを放送していた。列車は各駅停車であるが、空港貨物ターミナル駅を出ると次の雲西駅までは18.6kmと駅間隔は空いており、直線的な軌道を最高110km/hで疾走する。揺れは少なく、安定した乗り心地である。

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 市街地に入って、黔岩、桂陽と停車し金浦空港には0時前に到着、33分間の旅であった。A’REXは開業以来不振が続いているが、今年末には金浦空港 - ソウル駅間が開業し、仁川国際空港 - ソウル間はクロスシート直通快速で40分で結ばれる予定であり、今後仁川国際空港のアクセスが大いに改善されることが期待される。

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 現在のところ、金浦空港からは地下鉄5号線でソウル市内に向かうのが一般的である。しかし、まだ列車が残っているのかはっきり分からないし、荷物もあるので、残りの区間はタクシーを利用することにした。
 金浦空港は国際線ターミナルと国内線ターミナルに分かれており、それぞれにタクシー乗り場があるが、今日は国際線ターミナルに向かうこととする。しかし、連絡通路の動く歩道は止まっており、照明も減光されていて、歩いている人も殆どいない。5分ほど歩き、ターミナルビルに上がると、こちらも商店は全て営業を終え、ビル内も消灯されていたが、外に出ると、まだ人の姿があり、ほっとする。この時間でも路線バスは次々と発着している。私は客待ち中のタクシーをつかまえ、ホテルへと向かう。
 既に0時20分、タクシーは深夜の大通りを市内へと向かう。この時間でも人通りも車も多い。何より驚くのが路線バスの多さである、次々とバスとすれ違うのに、バスによっては立客が目立つ程の混雑ぶりである。金曜の夜とは言っても、この賑やかさには圧倒される。朝鮮半島の大河川、漢江を渡ると、タクシーは南東へ進路を向ける。タクシーの運転手は親切で、片言の英語で走行している場所を教えてくれる。金浦空港から30分強でソウル市庁に近いロッテホテル・ソウルに到着する。
 部屋は新館の18階にある。先に到着していたSさんと合流する。もう1時、シャワーを浴びてビールを一杯、明日に備え2時前には寝たのであった。
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