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8月1日 Wernigerode → Brocken → Wernigerode [ドイツ・オーストリア鉄道旅行 2012]

 6時半に起床、Wernigerodeの市庁舎のすぐ横にあるホテル、Travel Charme Gothisches Haus Wernigerodeの朝食はハムやソーセージなどの定番だけでなく、マスやサーモンなど種類が豊富で美味しい。部屋も清潔で快適だし、従業員は親切で、値段もそこまで高くはなく、とても良いホテルである。
 朝食を済ませたところで周囲を散歩する。Wernigerodeは木組みの建物が並ぶ美しい街である。使い古された言い方かもしれないが、模型的でもある。市庁舎や「小さな家」を見て回るが、小さな街だけに20分もかからない。
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 タクシーを呼んでもらい、8時20分にチェックアウトし、まずはDBのWernigerode駅へ。コインロッカーにスーツケースを預け、DB駅のすぐ横にあるハルツ狭軌鉄道Harzer Schmalspurbahnen HSBの駅へ。まだ朝なのに、観光客がチケットを買おうと集まっている。
 生来の鉄道ファンと言っても良いであろう私だが、蒸気機関車には全く縁がない。ドイツはおろか、日本でも蒸気機関車の牽引する列車にはまだ一度も乗ったことがないし、実際に動いている蒸気機関車を見たことさえ殆どない。そのためか、これまで蒸気機関車に対する興味は薄かったのであるが、どういうわけか最近になって無性に蒸気機関車に乗りたくなった。当初は本線用蒸機の特別運転などを探したが、日程が合うものがなく、結局ドイツ最大の蒸機鉄道であるHSBを旅程に組み入れたのである。HSBは全長140kmに及ぶネットワークを有し、各路線に蒸機を走らせているが、今回はハルツ山地の最高峰、標高1142mのブロッケン山Brockenを目指すことにする。ブロッケン山は特徴的な気象現象であるブロッケン現象でしられており、観光地として人気があるが、1961年のベルリンの壁建設の際には旧東ドイツと西ドイツの境界にあるという立地から東ドイツの軍事施設が置かれ、一般人が訪れることが出来なかった歴史がある。
 往復チケットを購入し、ホームへ。既にBrocken行8931列車の客車が停車している。隣のヤードでは数両の蒸機が発車準備中。こんな光景が見られる場所は、世界でも殆どないであろう。そして、ヤードの横にお立ち台を設置するサービスは何とも心憎い。

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 まもなく、本日の牽引機99 7239が近づいてきて、客車の先頭に連結された。まぶしい朝日に照らされ、よく磨かれた99形蒸機はなかなか美しく、まるで生きているかのような息吹を感じさせる。99 7238は1954年から56年の間に17両が製作され、現在のHSBの主力である99.23-24形の1両である。

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 写真を撮った後、編成の中程の客車に乗車する。まだ早い時間のためか、ボックスシートが並ぶ車内は空いており、座席の半分も埋まっていない。私はボックスを独占、隣のボックスには犬を連れた年配の男性が座る。08時55分8931列車は汽笛も高らかに、Wernigerodeをゆっくりと発車する。Wernigerodeは標高234m、Brockenは標高1125m、ここから800m近い山登りが始まるのである。
 Wernigerodeから1kmのWernigerode-Westerntorに停車する。ここには車両基地があり、多くの気動車や客車が止まっている。Wernigerodeの市街地に近いのか、乗車が多く、ここで大半の座席が埋まった。Wernigerode-Westerntorを発車すると、しばらく市街地を走るが、まもなく針葉樹が立ち並ぶ森の中へ入り、上り勾配が続く区間に入る。HSBの最高速度はわずか40km/hであるが、客車が小振りなためか、案外スピード感がある。蒸気機関車の発するブラスト音もなかなか力強い。
 列車はWernigerode-Hochschule Harz、Wernigerode-Hasserode、Steinerne Renneとこまめに停車し、乗客がそのたびに増えていく。同じボックスには恰幅の良い年配の夫婦が座る。小さな客車の狭い椅子である、こうなると何とも窮屈である。他の乗客が時々オープンデッキに立つのを見習い、私もデッキに行ってみると、森の空気がじかに感じられ、暗くて窓も汚れた車内にいるより、ずっと気持ち良い。Brockenまではこのデッキで過ごすことにしよう。

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 車内では、蒸気機関車の発する音と匂いに興味をひかれたのか、犬が何度も前に行こうとしては飼い主に紐を引っ張られて連れ戻される。それでもやめようとしないため、ついに飼い主に怒られ、しょんぼり。

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 デッキでは蒸気機関車の息吹が間近に聞こえ、森の空気と煙の匂いがまじり、時には煤が目に飛び込んでくる。まさにHSBの魅力を満喫するうちに、列車は森を抜けWernigerodeから13.1km、標高543mのDrei Annen Hohneに到着する。Drei Annen HohneはWernigerode – Nordhausen間60.5kmを結ぶHarzquerbahnからBrockenへの支線Brockenbahnが分岐する拠点駅である。山小屋風の駅舎の前には多くの乗客が待っており、ここからはかなりの立客が出る。Brockenへと本格的に山登りをする前に、先頭では蒸気機関車への給水作業が行われるため、列車はここでしばらく停車する。先頭で給水作業の様子を撮影した後、客車に戻る。客室内は混雑しているので、終点までデッキで過ごすことにする。

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 定刻より10分程遅れて、9時55分に発車、Harzquerbahnから分かれ、列車は再び森の中へと進む。この辺りからハルツ国立公園の域内となる。左に右に細かいカーブが連続する区間を西へと向かう、Drei Annnen Hohneから5.36kmを10分あまりで走り、標高685mのSchierkeに到着する。

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 しばらく停車した後、終点Brockenに向けて発車する。ここからはBrocken山の周囲を反時計回りに1.5周ループしながら、最大33パーミルの上り勾配で頂上を目指す。Brockenbahnは1898年6月20日にまずこのSchierkeまでの区間が開通し、続いて10月4日にBrockenまで全通した。今は観光路線として賑わうBrockenbahnだが、1961年のベルリンの壁建設以降、一般人がブロッケン山に立ち入れなくなり、Schierkeより先は駐屯する関係者や物資輸送用の列車が走るのみであった。東西ドイツ統一の際には配線も検討されたが、地元政治家や鉄道ファンの尽力で存続されることになり、1991年9月15日に一般営業を再開した。東ドイツ時代は国鉄により運営されていたが、1993年にはHSBとして民営化され、今日も元気に蒸気機関車が走っている。
 そんな歴史をよそに、多くの観光客で満員の車内は明るい空気に包まれている。山の涼しい風を浴びながら、列車はひたすら山頂を目指す。1年のうち260日は霧に包まれるというブロッケン山だが、今日は快晴で心地良い。ハイキング客も多く、列車に向けて手を振ったり、写真を撮ったり、思い思いに楽しんでいる。山頂のレーダー施設が近づいてくると、木々がまだらになってくる。列車はラストスパート、Schierkeからの13.6kmの区間を30分かけて登りきり、標高1125mのBrockenには10分遅れの10時46分に到着する。

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 ここまで牽引してきた99 7239は機回しを済ませて編成の反対側に連結され、8940列車として慌ただしくDrei Annen Hohneへと発車していく。

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 ブロッケン山頂には博物館やテレビ塔などがあるが、あまり時間もない。そこで駅のすぐ近くにある「悪魔の説教壇と魔女の祭壇」Teufelskanzek und Hexenaltarへ行く。ブロッケン山はゲーテ「ファウスト」でヴァルプルギスの夜に魔女の集まる地として登場するなど、昔から神秘の山と捉えられているのである。

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 今日のブロッケン山は快晴、美しい景色を眺めていると、山の下方からドラフト音が響いてくる。どうやら列車が山頂へと向かってきているようだ。かなり待って、99 7243を先頭に8933列車がやって来た。

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 99 7243は機回しを済ませ、Wernigerode行8932列車として山を下る。私もこの列車に乗ることにするが、その前に売店でビールを購入、Heissräderの生ビールである、1杯のはずなのに、言い方が悪かったようで、2杯出てきた。まあ良いか、2杯飲めば良いのだから。

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 まだ午前ということもあり、車内は空いていたが、せっかくなので機関車のすぐ後ろに座ったら、ここだけは鉄道ファンは沢山いた。定刻より10分遅れの11時46分にBrockenを発車する。ハイキング客を横目に走ることしばし、列車は一旦停車する。車掌が下りてポイントを手動で切り替え、列車はゆっくりと側線に入る。待つことしばし、Brocken山頂を目指す8925列車が眼下の本線を通過していく。Brocken – Schierke間は14kmもあるので、このような交換設備が用意されているのである。列車は一旦バックして本線に戻る。ここで車掌を乗せ、再び下山を開始する。

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 Schierkeに到着、ここでBrocken行8941列車と交換する。本来のダイヤでは8分停車となっていることもあり、この駅はほぼ定刻の12時25分に発車する。

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 NordhausenからのHarzquerbahnに合流し、拠点駅Drei Annen Hohneには12時36分に到着する。ここではBrocken行8920列車、Eisfelder Talmühle行8903列車と合わせ、蒸気機関車牽引列車が3本集合する。給水のための停車時間を利用し、撮影を楽しむことにする。



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 Drei Annen Hohneを出発し、列車はさらに山を下りながらSteinerne Renne、Wernigerode- Hasserodeと停車する。そろそろWernigerodeの市街地となる。Wernigerode Hochschule Harzを過ぎ、車庫のあるWernigerode WesterntorでBrocken行8935列車と交換する。

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 Wernigerode Westerntorを発車、かわいい貨車を眺めながら、機関区が現れれば、終点のWernigerodeである。定刻より2分遅れ、13時35分の到着である。ずんぐりとしているが、愛嬌のある99 7243の機回しを眺めれば、生涯初めての蒸気機関車の旅は終了。期待以上の楽しさで、いつかは再訪したいものである。



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 ここからは再びDBの旅に戻るが、1時間以上余裕がある。機関区を眺め、HSBの駅舎でお土産用にHSBグッズを物色した後、DB駅舎に併設されたピッツェリアに入る。客は他にはいない、ビールと共にきのこたっぷりの大きなピッツァで遅い昼食とする。

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コメント 2

klaviermusik-koba

HUHさん


楽しく拝見しました。私が乗ったのはまだ経営がDR時代でしたから機関車のHarzquerbahnの文字が時代の変遷を感じます。客車もすっかりレストアされ、昔の木製のベンチ時代とは大変な違いで、いい意味でうまく観光化されていると思いました。蒸気牽引でブロッケン登山、行ってみたいなあ、と思います。それにしてもあの古い車両たちが良くていれされ、活躍できているのをみると文化の深さを特に強く感じます。またゆっくりHSBの話を聞かせてください。


by klaviermusik-koba (2013-08-13 09:29) 

HUH

klaviermusik-kobaさん
HSBも昔と同じと思いきや、風情を残しつつ改良されているのですね。これだけの蒸気機関車が現役で、大切に使用されているのはつくづく凄いことだと思います。今度、お会いした時に、HSBの昔話も伺いたいものです。
by HUH (2013-08-22 19:11) 

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