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9月5日 Cheongnyangni → Jecheon → Daejeon [韓国鉄道旅行 2010]

 目が覚めると5時半である。昨日の深酒でどうにも眠いが、慌ただしく準備をして、6時15分にはロッテホテル・ソウルをチェックアウトする。隣のプレジデントホテルに行って、T師匠の部屋に荷物を預けて、身軽になったところで出発する。

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ロッテホテルソウル

 今日はソウル第3のターミナル、清涼里駅から旅を開始する予定である。清涼里駅は地下鉄1号線で行くことができるが、ソウルの朝の風景を見たいので、タクシーで向かうことにする。まだ6時半、陽も上りきっていない時間であるが、交通量は多い。ソウルの街の風景は、看板がハングルであることを除けば東京と大きくは変わらないが、東大門をはじめ、時々現れる歴史的な建造物がこの街の魅力を与えている。屋台で朝食を摂りながら大きな声で話す人々の姿も目に入り、ソウルの街に溢れるエネルギーに触れることが出来て楽しい。

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 それにしても、ソウルはバスが多い。東京は最も路線が集中する場所でも2、3台が団子になって走って来る程度であるが、ソウルは何台も続けてやって来て、しかも途切れない。韓国はバス社会であることを実感する。

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 ホテルから20分ほどで清涼里駅に着く。清涼里駅は中央線や京春線などが発着するソウルの西のターミナルである。駅舎はソウル駅と同様、ガラス張りの立派な建物に改装されているが、KTXもセマウルも設定されておらず小じんまりとしている。とはいえ、駅前はよく整備され、ロッテ百貨店も併設されている。

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 駅構内は広々としているが、人影はまばらである。窓口も空いており、インターネット予約した際の予約票を差し出すと、今日の乗車券をすぐに発券してもらえた。まだ時間があるので外に出ると、清涼里駅構内の車庫が見渡せた。 

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●Mugunghwa1831 (Cheongnyangni → Jecheon: 150.7km)

 売店で飲物を買い、ホームに降りる。これから乗車する7時10分発の江陵行ムグンファ1831は既に入線していた。隣のホームでは京春線春川行のムグンファも停車中、春川行はディーゼル機関車牽引であるが、こちらは電気機関車の牽引である。

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 我々が乗車するムグンファ1831は8200形電気機関車の8253号機が牽引する。8200形はSiemens製のEuroSprinterシリーズのES64F型に相当し、ドイツ鉄道の152形を韓国仕様に変更した機関車である。Korailは1998年に大宇重工業によるノックダウン生産で、EuroSprinterを2両導入した。この2両は8100形を名乗り、量産に向けた試作機と位置付けられていた。8200形は8100形での経験を元に、韓国における運転特性に合わせて改良され、Siemens、および現代ロッテムによるノックダウン生産により、83両が製作された。制御装置はSiemensのSIBAS32が採用され、スイッチング素子はGTOサイリスタである。定格出力1,300kWの主電動機が4台搭載され、出力5,200kW、引張力330kNで、最高150km/hの性能を誇る。8200形は現在、電化区間では客車列車牽引の中心的な存在として、韓国各地で活躍している。ドイツ鉄道ファンの私にとって、この8200形牽引のムグンファの旅は、今回の旅行の中でも最大の楽しみであった。発車前に機関車を眺める。152形と同様、シンプルな造形の中に力強さがみなぎり、これから始まる列車の旅に心を躍らせる。

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 ムグンファ1831は機関車の後ろに普通席車2両、カフェカー、普通席車2両、特室車、最後尾に電源車を連結した客車7両の編成である。8200形は客車用電源を搭載しており、本来電源車は不要であるが、ディーゼル機関車による代走に備えて電源車の連結が残されている。ムグンファのダイヤもディーゼル機関車での代走が可能な設定になっているものの、遅延時には8200形の高性能が活かされるそうである。
 我々は電源車の前に連結された特室を予約していた。特室の客車は編成の中では唯一コルゲート入のステンレス客車、どうやらセマウル用客車を格下げした車両のようだ。車内も昨日乗車したセマウルのDHCにそっくりである。特室は空いていて、乗客は我々3人の他は欧米人の夫婦と、他に2、3人のみであった。

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 列車は7時10分定刻に発車した。隣の電源車の音が聞こえてくるが、気になる程ではなく、車内は静かである。列車は高層住宅が立ち並ぶソウル都市圏を80km/h程で走る。このあたりは助走区間と行ったところか。

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 中央線は清涼里と龍門までの59.9kmは、首都圏電鉄中央線と線路を共用しており、電鉄線で活躍する321000系と何度もすれ違う。321000系は5000系、6000系から再編成された形式で、前面は「新トングリ」である。
清涼里から15分、左から漢江が近づいてくると、最初の停車駅、徳沼に到着する。徳沼までの区間は2005年12月に首都圏電鉄中央線が最初に開業した区間である。わずかな乗車があったのみで、ムグンファはすぐに発車する。

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 徳沼からは右には漢江が寄り添い、その向こうには高層住宅が立ち並ぶ。8200形にとっては7両の客車編成は大きな負担ではない様子である、列車は100km/h以上で快走する。車窓を眺めていると、至る所に路線改良の跡がある。どうやら川に沿った曲線区間をトンネルの新線に切り替えたようである。トンネルポータルも、フランスやドイツの高速新線に見られる、円筒を斜めに切ったようなデザインであり、トンネルがまだ新しいものであることが分かる。
 二日酔いで食欲はあまりないが、昨日屋台でサービスしてもらった海苔巻を朝食に食べる。韓国の海苔巻、キムパはゴマ油の香りが効いてとても美味しい。駅の売店でも、コンビニでも屋台でも、どこでも売られている定番の軽食だが、それもうなずける。
 このあたりは北漢江と南漢江が合流するあたりである。列車は北朝鮮・春川から流れてきた北漢江を渡り、南漢江に寄り添うように走る。車窓風景もややのどかになってきた。

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 電鉄線の駅は開業後5年も経っていないこともあり、どこも新しい。通過線が設けられていることもあり、中央線の線路設備はなかなか充実している。再び市街地が広がると、楊平に到着する。

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 楊平には数分間停車し、発車は定刻より3分遅く7時54分であった。楊平を出ると、車窓には農村風景が広がり、連なる山々にもやがかかって、まるで水墨画のように美しい。

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 10分ほどで龍門に停車する、ここは首都圏電鉄中央線の終点であるり、車庫が併設されている、今後、首都圏電鉄はさらに延伸される予定とのことである。

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 中央線のムグンファは大半の列車はこの先、一部の駅のみに停車するが、我々が乗車するムグンファ1631は全ての旅客営業駅に丁寧に停車する。龍門から先は曲線が多く、速度制限が設定されている箇所も随所にある。龍門の次の砥平からは単線区間、ローカル線の風情となり、これまでの快走が嘘のようにゆっくりと走る。

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 無人駅の石仏を過ぎ、九屯駅でムグンファ1628と交換する。

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 次の梅谷も無人駅、列車はほぼ5分おきに小駅に停車する。駅のホームは高さが低く、舗装も省略されているところが多い。駅舎もこじんまり、そして山深い車窓風景、これは各駅停車の旅だからこそ味わえる楽しさである。ソウルからたったの1時間半程で、こんな列車の旅が味わえるとは予想外である。ただ、この辺りでも路線改良工事が行われている区間があり、数年後には大きく姿を変えることになるのかもしれない。

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 カフェカーに足を運んでみる。カフェカーもセマウルのDHCと同様の設備である。インターネットコーナーで、中央線の情報を調べる。日本語の入力は出来ないが、閲覧は可能であり、ちょっとした検索には便利である。しかし、通信状態が安定せず、思ったように調べられなかったのは残念であった。
 楊東は停車する列車本数が多く、町も比較的開けていた。その後も判岱、艮峴、桐華とこまめに停車して行く。駅に停車するたびに少しずつ降車客がいて、車内は空いてきた。駅のたびに車内モニターと自動放送で停車駅案内が流れる。韓国語だけでなく、英語での案内もあるのは、外国からの旅行客には有難いところである。一般室も見に行くと、半分以上の座席が埋まっており、なかなかの乗車率である。比較的新しい客車のようで、客室のデザインはシンプルだが清潔感がある。新幹線サイズの車体に座席が2+2列で配置されてため広々としている。シートピッチは特室程ではないが、十分な快適さがある。

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 住宅が増えてくると、まもなく原州に到着する。清涼里駅から104.0kmを約1時間45分で走り抜けたことになる。原州は駅も規模が大きく、乗客も入れ替わりも多い。マンションなども立ち並び、なかなか大きな街である。

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 原州からは雉岳山国立公園の西側を、南東方面へ向けて走りながら山越えをする。列車は農村風景を横目に、徐々に高度を上げていく。

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 左にカーブしながら長いトンネルを通り抜けると、車窓の右下方に先程通ってきた線路が現れる。そう、ここはループ線区間なのである。

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 旅客列車は原州から神林までの27.5kmはノンストップで走るが、この区間には旅客営業を行っていない駅が2駅、信号所が3か所あり、時々ムグンファや貨物列車と交換する。山越えを終えると、神林には9時25分に到着する。

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 神林を発車すると、先程のような上り勾配が続くわけではないが、車窓には山々が連なり、左へ右へとカーブが続く。

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 右から忠北線が合流すると、鳳陽に到着する。

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 鳳陽を短い停車時間で発車すると、比較的平坦な区間を列車は力強く走って行く。拠点駅、堤川へのラストスパートである。車窓に堤川の市街地が広がってくると減速、列車は堤川駅に到着する、定刻より7分遅れの9時49分の到着である。清涼里から150.7km、鉄道旅行の様々な楽しさが凝縮された、約2時間40分の旅であった。

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 ここでムグンファ1831の先頭から8253号機関車の連結が解かれ、単独で離れていく。どうやら機関車を交換するようだ。

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 ムグンファ1831は太白線・嶺東線経由の江陵行である。全区間電化されており、8200形がそのまま直通できるはずだ、と思っていたら、代わりに近づいてきたのは同じ8200形の8282号機である。8200形同士を交換するのは、運用の都合であろうか、それとも8253号機に不具合でもあったのであろうか。ムグンファ1831はSiemns特有のドレミのインバーター音を響かせ発車していった。

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 堤川駅はKorailの忠北支社がおかれ、中央線・太白線・忠北線の列車が発着する拠点駅である。ホームは2面6線だが、広大な構内には様々な機関車や客車、貨車が並んでいる。中でも目立つのが、8000形電気機関車である。8000形は1972年に登場した。フランス国鉄のBB7200形電気機関車をベースとしており、Alstomと大宇重工業により製作された。8000形は最高85km/hに留まるが、ギア比が宅設定されており、山岳区間に適した設計となっている。以前は旅客列車にも使用されていたが、その任は8200形に譲り、現在は貨物列車用として活躍している。ゲンコツ・スタイルはまさにフランス・デザイン、ドイツとフランス発の電気機関車が活躍する姿を同時に見られるのは韓国ならではの楽しみである。

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 10時過ぎにムグンファ1643が入線してきた。ムグンファ1643はディーゼル機関車牽引である。清涼里をムグンファ1631より40分遅く発車するが、停車駅は楊東・原州のみで、堤川に着く頃にはかなり追い上げているのである。




●Mugunghwa1634 (Jecheon → Daejeon: 150.3km)

 ムグンファ1643が慌ただしく発車して行くと、まもなく忠北線大田行のムグンファ1706が客車を先頭に推進運転で入線してきた。機関車は8200形8261号機、客車は4両、全て一般席車であるが、2号車は半室がミニミニカフェになっている。

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 ホームの売店でビールを購入して、車内に乗り込む。昨夜、遅くまで深酒をしたものの、やはり列車の旅にはアルコールは欠かせないのである。
 発車直前になると乗客が集まって来て、7割方の座席が埋まった。10時20分に堤川駅を発車、中央線を清涼里方面へと走る。鳳陽駅を通過すると左へ大きく曲がり、中央線と離れ、南西へと針路を向ける。
 客車は、中央線のムグンファに比べればやや古いようだが、座席は十分な広さがあり、快適、日本であれば特急車両として使っても、全く違和感のないレベルである。ミニミニカフェは自動販売機が1台置かれており、清涼飲料水や菓子類を販売している。窓に沿って、ミニテーブルが設置され、気分転換できるフリースペースである。このような短編成の列車にも、このようなスペースを設けるのは嬉しい。日本では観光列車でもない限りは、まず考えられないところだ。

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 忠北線の旅客列車は堤川 – 大田間のムグンファ8往復、堤川 – 天安 – ソウル間のヌリロ1往復のみで、概ね2時間間隔で運転されている。列車本数が少ないのでローカル線を想像していたが、鳳陽 – 鳥致院間115.0kmのうち、五松 -鳥致院間4.4kmを除き複線化されており、全線電化されている。対向列車は貨物列車が目立ち、貨物線としての存在意義が大きいことが伝わってくる。
 ここでデジタルカメラのバッテリー残量が少ないことに気が付く。慌ただしく日本を出発したため、交換用バッテリーを用意していないのに、調子に乗って写真や動画を沢山撮ったからであろう。仕方がないので、写真は控えて、車窓風景を楽しむことにする。
 韓国のビールは、湿気の多い気候に合わせたのか、軽い味わいで飲みやすい。このように日中飲むのに向いている。とはいえ、元々睡眠不足だったところへビールが入り、いつのまにか眠ってしまった。
 ざわついた空気に目が覚めると、忠州である。忠州は忠清北道第二の都市であり、街もかなり発展している。水安堡温泉への近い。忠北線の中心駅の一つであり、かなりの乗客が下車したが、乗車も多く、車内はむしろ乗客が増えたようである。忠州は南漢江の上流域にあり、この周辺で列車は南漢江やその支流を超える。
 忠州までは山がちで、田園風景が続いてのどかであったが、忠州以降は近郊都市といった趣きに変わる。列車は周徳、曾坪、陰城と5~10分おきにこまめに停車し、、少しづつ乗客も増えてくる。客車の車端部に案内用ディスプレイが設けられており、韓国語と英語で停車駅案内が行われている。
 駅を発車するたびに感じるのは、客車列車とは思えない鋭い加速である。あっという間にトップスピードに到達する。これなら電車に遜色はない。忠北線は線形も良く、130km/h程度は出ているようだ。8200形の高性能ぶりを存分に堪能できる忠北線の旅もなかなか楽しい。
 清州空港駅は文字通り、空港に近い駅であるが、無人駅で、乗降客も少なかった。ターミナルビルが近く、空港からは済州島行の定期便が運行されているが、鉄道利用には結びついていないようだ。
 梧根場を過ぎ、高層住宅やビルが増えてくると、忠清北道の同庁所在地である、清州に到着する。ここでも、かなりの乗降があり、座席は9割方埋まった状態で、2分遅れの11時40分に発車する。

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 KTXの高速新線をくぐったところが五松駅である。ここは現在は貨物駅であるが、KTXの新駅がまもなく開業予定で、忠北線の旅客列車と接続することになっている。五松駅を通過したところで、右側に見慣れない車両が現れる。白い車体に赤い帯、現在韓国で試験運転が行われている振子電車TTXである。まさか見られるとは思っていなかっただけに幸運である。しかし、このTTXが登場すると、セマウルやムグンファはどうなるのか、と考えると、少し複雑な心境にさせられる。

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 列車が減速すると、鳥致院のデルタ線である。忠北線の旅も間もなく終わろうとしている。まず、京釜線ソウル方面へ合流する路線が右へと分かれていく。続いて、京釜線が近づいてくる。ちょうどソウル方面へのムグンファが走り去るのが見える。

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 こちらは左へとカーブし、京釜線と合流したところで鳥致院駅に到着する。
鳥致院からは京釜線に乗り入れ、大田へラストスパートをかける。途中、新灘津に止まり、大田までは27分、12時25分、定刻より2分遅れで終点大田に到着する。

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